『水燃えて火』
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【聞きたい】神津カンナさん 『水燃えて火 山師と女優の電力革命』
■水力発電めぐる人間ドラマ
エッセー執筆やラジオ番組出演など幅広い分野で活躍する著者が約20年ぶりに手掛けた小説は、大正時代、福沢諭吉の娘婿で「電力王」と呼ばれた福沢桃介が、木曽川に水力発電を造った実話が題材だ。
「エネルギー業界とは長い縁があって、20代の頃から各地の発電施設を見てきました。その度に思ったのが、どんなに小さな発電所でも自然環境を破壊したりそこに住む人の生活を変化させたりしてしまうのは避けられないということ。でも、国の経済や国民の暮らしを守るために発電所は必要。生活と切り離せないエネルギーの話をいつか書きたいと思っていました」
桃介を支えた川上貞奴(さだやっこ)は日本の女優第1号で、夫の音二郎亡き後に児童劇団を作るなど、時代の先端をいく自立した女性。その貞奴が、励ましたりたしなめたりして桃介を奮い立たせ、事業を成功に導いていくところも読みどころの一つ。
「横で“伴奏”してくれた貞奴がいたから、桃介も大事業に取り組めたのでは…。実録ではなく、あくまでも小説なので、こうだったらいいなと思うことを貞奴に言わせました」
今でこそ自然エネルギーともてはやされる水力発電も、当時は環境を破壊すると嫌われ、反対運動も盛んだった。そんな中、桃介は7つもの水力発電所を造っている。本書には、当時の時代が持つダイナミズムや女性の地位、演劇の改良運動、林業の歴史など発電所を取り巻くそれぞれの話も丁寧に書き込まれている。
「いろんなテーマが1つの川に流れている感じにしたかった。私自身は、母(女優の中村メイコさん)が芝居をやっていることや大学で演劇を学んだこともあり演劇にまつわる話は書いていておもしろかった。人によって興味を持つところは違うと思うので、ぜひ読んで楽しんでほしい」(中央公論新社・1800円+税)
平沢裕子
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【プロフィル】神津カンナ
こうづ・かんな 昭和33年、東京生まれ。高校卒業後、米・ニューヨークのサラ・ローレンスカレッジで演劇を学ぶ。帰国後に発表した「親離れするとき読む本」がベストセラーに。「美人女優」「冷蔵庫が壊れた日」など著書多数。