野村克也が憂う、WBC後遺症――開幕から不調の代表選手たち

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 2017年3月に開催された第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本は、第1次予選、2次予選と全勝で勝ち抜き、アメリカに渡っての戦いとなった準決勝のアメリカ戦で1対2で惜敗した。大会前は期待の声が小さかった侍ジャパンにしてみれば、大健闘の結果を残したといえるが、その一方で、WBCで活躍した多くの選手たちが、ペナントレースに入った途端に調子を崩してしまうという事態に襲われた。この点について、2017年5月に発売されたばかりの『負けを生かす極意』(SB新書)のなかで、野球評論家の野村克也氏が冷静に分析している。

WBC代表の選手たちが軒並み苦しんでいる現状から、考えなければならないこと

「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で4大会連続でベスト4以上。あらためて日本野球のレベルの高さを見ることができた」と語るのは、野球評論家の野村克也氏。だが、WBCに出場したツケが意外な形で代表選手たちを襲った。ケガや不振による”WBC後遺症”である。

 野村氏は著書『負けを生かす極意』のなかで、次のように指摘している。

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「日本だってたしかに国内でできうる限りのトップクラスの選手を集めた。だが、投打の中心になるはずだった大谷翔平が、一度は代表に選出されながらも、右足首の痛みで辞退したり、WBCに選出された先発投手が軒並み開幕投手を辞退し、野手も筒香や中田ら、WBCで中軸を担った選手たちが軒並み調子を落としている姿を見て、あるいはWBCで故障したときのリスクを考えたときに、『この大会に出るのは止めたほうがいいな』と考える日本のトップクラスの選手が、今後出てきたってなんら不思議な話ではない」(『負けを生かす極意』より)

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 WBCの準決勝のアメリカ戦で敗退してから(3月22日)、日本のプロ野球の開幕は31日だったので、その間は9日しかない。限られた時間のなかで、とくに投手はWBCの疲れをとることは難しいだろうし、巨人の菅野智之や楽天の則本昂大ら、例年なら開幕投手を務める人材も、今回は回避せざるをえなかった。

 また昨季、本塁打と打点のタイトルを獲得したDeNAの筒香嘉智は、今季14試合(4月21日時点)を消化して時点で本塁打0、打点1と、彼の持っているポテンシャルでは考えられないほどの落ち込んだ成績だ。筒香に限らず、日本ハムの中田翔は右内転筋挫傷で二軍落ちした。そして彼らが所属するDeNAと日本ハムは、筒香、中田の不振や故障に比例するかのように下位を低迷している。

 もちろん昨季2冠のタイトルを獲得した筒香に対し、セ・リーグの5球団による執拗なマークが功を奏しているという見方もできるが、「WBCによる傍からは見えない疲労」に襲われていることだって考えられる。無論、打者に限らず、WBCで登板した投手陣だって、ペナントレースの開幕から臨戦態勢に入るにはしばしの休息が必要だったはずだ。

 WBCに出場した選手が不振やコンディション不良に陥っている現状を見るにつけ、「WBC代表に選出される意味」について、個々の選手が考える必要があるかもしれない。

WBCで活躍しても、ペナントレースで活躍できなかったらどうなるか

 WBCの代表に選ばれることはすなわち、所属チームに帰ればチームの中心を担う立場の選手たちばかりである。シーズン終了後に翌年の契約を交わすのは、いうまでもなく選手たちが所属する球団であり、年俸は、4年に1回開催されるWBCの成績ではなく、ペナントレースでどれだけ貢献してくれたかで決定される。

 たとえば投手であれば勝利数や防御率などの目に見えて分かる成績はもとより、優勝争いをしていれば天王山と呼ばれる、シーズンの行方を左右するような試合で、どれだけ貢献してくれたかもフロントは査定の際に重要視していると聞く。

 もちろんこのことは投手だけに限らず野手も同様だ。打撃だけでなく、守備面での成績だって査定の対象になる。そうしたときに、「WBCよりシーズンのほうが大事」と考える選手だって出てきても、おかしな話ではない。

 たとえば今回の大会で、打撃面で飛躍的に成長したと思われた巨人の小林誠司は、ペナントレースが始まった途端、大ブレーキとなった。打席に立てば凡打の山では、「WBCのときの打撃はいったい何だったのだろう?」とあまりの不振ぶりに不思議に思う野球ファンだっているに違いない。

「キャッチャーは現場における第二の監督である」という持論がある野村氏にしてみれば、精神的な負担も相当あるかもしれないが、このままだと昨季よりも低い打率となってしまう可能性だってある。

 そうなると、せっかくWBCで活躍しても、いざペナントレースで大不振に陥ってしまったりしたら、シーズンオフの契約更改でなんらかの影響を及ぼしてしまうかもしれない。

 実際に野村氏は『負けを生かす極意』のなかで、こう指摘している。

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「WBCと、契約に大いに関係してくるシーズンの成績を天秤にかけたら『シーズンで活躍するほうが大切』だと考えている選手だっているかもしれない。そうしたときに、なんらかの理由をつけて『WBCは辞退します』と言う選手は今後も出てくるだろう」(『負けを生かす極意』より)

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今一度、WBCの臨み方について、プロ野球関係者は大いに議論すべき

 それではWBCを辞退した選手たちを非難できるかどうか? 答えはノーである。 野村氏は自らがチームを預かる監督としての立場だったとして、同著のなかで次のように持論を述べている。

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「私が所属チームの指揮官であれば、『頑張ってこい』と送り出す一方で、『ケガだけはするなよ』という親心も働いてしまうものだ。ましてや開幕を控えたこの時期に、主力選手を送り出すことの不安は、どのチームの指揮官も内心抱えているだろうが、それを表に出してしまうと世間から非難を浴びてしまう」(『負けを生かす極意』より)

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 野村氏が楽天の監督だった2009年の第2回WBCでは、岩隈久志と田中将大が選ばれ、日本の大会2連覇に貢献した。2人とも今やメジャーで活躍する投手だが、当時の楽天でも先発を担う大事な柱であった。野村氏の心情を吐露したこの言葉は、まさに本音そのものといえよう。

 そうなると「WBCの代表メンバーに選ばれ、出場すること」がどれほど名誉だと選手自身が感じてくれるか、ということに尽きる。その場合、各チームの主軸を担う選手にこだわる必要がないという考えだってあるだろう。

 だが、野村氏は侍ジャパンのメンバー選出について、次のように持論を述べている。

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「『出たい選手だけが出ればいい』という姿勢では、誰もが納得するようなメンバー選出ができるとは思えないし、大谷のWBC辞退に始まる諸問題は、次の大会前までにクリアすべき事案となったに違いない」(『負けを生かす極意』より)

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 日本の代表選手の選考について、所属チームとの契約上の問題でメジャーリーガーが難しいのであれば、少なくとも日本のトッププレイヤーであることが望ましいと、野村氏は考えている。そのためには、メンバーの人選の基準について、NPB(日本野球機構)やプロ野球選手会などは、現場の意見を反映させるべく、もっと積極的に議論を交わしておくべきだろうというのが、同氏の主張するところだ。

 このほかにも同著では、外野手出身監督では常勝チームを作れない理由や、今のプロ野球を見て現有戦力で足りないもの、監督通算成績「1565勝、1563敗、76分」の筆者が伝えたい敗北学、「負け」を次に生かせるリーダーの条件などについても述べている。

SBCrOnline
2017年5月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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