作家・宮内悠介「一箱古本市に参加してみた」 神楽坂ブック倶楽部イベントレポート

イベントレポート

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この手で売って見えたこと

 その後の打ち上げまで間があったので、チェーンの喫茶店で一服して、ああ売ればよかったのではないか、こういう工夫があったではないかと一人反省会を催しながら、早くも次回の算段を考える。これは、本職の書店員ではない、素人だからこその楽しみか。

 それから、伝説の新潮社地下の社食にて、小さな打ち上げがあった。ピザがあっという間に消滅し、編集さんたちがコンビニへ買い出しに走る。土日のイベントであったので(ぼくはそのうち日曜日の参加)、代休は取れるのだろうかと他人事ながら勝手に心配する。

 打ち上げの場では、ユニークな箱を用意した店への表彰や、売上トップ3の発表などなども。我が「カブールの市」はというと、七十冊用意したうち六十冊が売れ、なんと売上冊数で二位に。やった、嬉しい!

 その場で、一箱古本市の創始者である南陀楼綾繁さんとお話しすることもできた。本来なら不必要な、スリップによる売上管理も氏の発案とのこと。確かに、手放しづらかった本も、スリップが残れば、少なくとも痕跡は残るし、残ったスリップを通じて、本を手渡した瞬間の記憶が蘇ったりもする。

 なるほど、考えられている。

 最大の収穫はというと、古書、それも一箱とはいえ、いかに各書店がそれぞれに工夫して本を売っているか、その一端が体験できたことであったと思う。思えば、会社員時代にはメーカーの営業のようなこともやり、いかにモノを売るのが難しいか――というよりそれが限りなく不可能に近いかを思い知った。ゲームでいうところの、ハードモードだ。

 だから実のところ、いまだに書かせてもらえ、本を刷ってもらえる現状が、まるで起こりえない奇蹟が起きているような、奇妙な居心地の悪さに囚われていた。でも、もちろんそれは、ハードモードを乗り越えてくれた関係者の人たちと、読者のおかげなのだ。

 手を動かし、試行錯誤してみて、ようやく、頭でわかっていたそのことが、自分の身体感覚と結びついた気がする。

 ――ちなみに、今回の「神楽坂ブック倶楽部」の主たる運営は、新潮社の編集さんたちによるもの。業務の傍ら、それも専門外のこととあり、過酷な作業であったことは想像に難くない。本当にお疲れさまでした。でも、参加者の皆さんは本当に幸せそうな顔をしていました!

新潮社 波
2017年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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