• 出会いなおし
  • 好きなひとができました
  • 魂でもいいから、そばにいて
  • 再起動
  • バン・マリーへの手紙

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中江有里「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

 森絵都の短編集『出会いなおし』表題作でもある一編はイラストレーターの「私」と編集者のナリキヨさんとの十数年にわたる出会いと別れ、再会を描く。恋に似た感触を持ちつつも二人の関係は発展しないまま「私」は勉強のため海外へ。帰国後、変わった自分を見せるはずが、自分以上に服装も言動も変わったナリキヨさんに戸惑う。再び距離を置いた二人だが、年月を経て出会う機会がやってきた。小学生時代の苦い思い出を忘れられない「むすびめ」は同窓会でクラスメイトに再会する。人をわかったつもりでいても、実はわかっていない。何度も出会いなおして、素の自分と相手を知るのだろう。人が愛おしくなる珠玉の短編集。

 加藤元『好きなひとができました』。謎めいた男・登吾は「好きなひとができた」と言っては次々に女性を振っていく。その素性が彼を知る人々から少しずつあぶり出されていく展開がスリリング。そもそも誰かを「好きになる」とはどういうことなのか? 本書を読み進めながら問い続けた。

 奥野修司『魂でもいいから、そばにいて―3・11後の霊体験を聞く―』は最愛の人を亡くした人たちそれぞれの体験を聞き取ったノンフィクション。霊体験は主観的で、客観的な証拠はない。しかし紛れもなく被災者たちの胸の内にある真実の物語であり、彼らが生きるために死者はそばにいると信じさせてくれる。

 岡本学『再起動』は、「リブート(再起動)教」を立ち上げた「僕」と友人が予想外に発展してしまった教団の扱いに戸惑う。人間をパソコンに見立て、再起動するには徹底的に精神を殺す―浮遊感と怖さが同居する読後感。

 堀江敏幸『バン・マリーへの手紙』のバン・マリーとは湯煎のこと。立ち上る淡く白い湯気をスケッチするような繊細な筆致が好きだ。

新潮社 週刊新潮
2017年5月4・11日ゴールデンウイーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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