『挑発する写真史』
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挑発する写真史 金村修・タカザワケンジ 著
[レビュアー] 白山眞理(日本カメラ博物館)
◆古今の表現巡り熱論
写真について語り合うのは楽しい。本書は「モダニズム写真の源流」以下十のテーマについて、写真家の金村と写真評論家タカザワの対談を基に構成された。
ウジェーヌ・アジェ、ロバート・フランク、桑原甲子雄、森山大道など、金村が興味を持っている作家たち三十名を柱に、前世代の作品と活躍中の若い作家が芋づる式にたぐり寄せられる。古今東西の関連人名は百以上にのぼり、写真家の経歴解説もあるが、主眼は表現論にある。時代思潮や音楽、小説、絵画などに話は広がり、過去と現在が響き合う。
俯瞰(ふかん)する「写真史」とは異なり、取り上げる作品や論調からは二人の写真観がストレートに伝わる。「やはり、写真家の見方って面白いと思うんです。中立じゃないから」とタカザワは言う。歴史的事項で弾む会話は勢いがあり、タイトル通りに読者を「挑発」していく。
一方、アジェを勘違いしていたという金村は、「この歳(とし)になって真実にきがつきたくなかったなって(笑)」とつぶやく。批判精神は、史実に支えられてこそ説得力を持つ。表現者である金村の鋭い感性に魅入られるが、定説を鵜呑(うの)みにせず資料発掘する写真史家もパンクだと気づかされる。
お勉強ではない写真史の本として、躍動する現代写真を読み解く手引きのひとつとして、若い読者に薦めたい。
(平凡社・2484円)
<かねむら・おさむ> 写真家。
<たかざわ・けんじ> 写真評論家。
◆もう1冊
飯沢耕太郎著『増補 戦後写真史ノート』(岩波現代文庫)。戦後の代表的写真家の活動から、その表現史を展開。