[受賞作を書評家が解説]第30回三島賞に宮内悠介『カブールの園』山本賞に佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』

文学賞・賞

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 第30回三島由紀夫賞と山本周五郎賞(新潮文芸振興会主催)が16日に発表され、三島賞は宮内悠介さん『カブールの園』(文藝春秋)、山本賞は佐藤多佳子さん『明るい夜に出かけて』(新潮社)が受賞した。佐藤さんは3度目の山本賞候補での受賞となった。

 三島賞を受賞した宮内悠介さんは、1979年東京生まれ。2012年盤上ゲームを題材とした連作短編集『盤上の夜』で第33回日本SF大賞を受賞。2013年『ヨハネスブルグの天使たち』で第34回日本SF大賞特別賞を受賞している。近著に『アメリカ最後の実験』『彼女がエスパーだったころ』『あとは野となれ大和撫子』などがある。

 受賞作の『カブールの園』は、サンフランシスコで暮らす日本語を話せない日系移民三世が主人公。主人公は旅の途中にかつて日系人収容所であった博物館を訪れる。そこで過去三世代に及ぶアイデンティティを巡る葛藤に直面し、自らのルーツである日本と日本語を見つめ直すこととなる。同作は第156回芥川賞にもノミネートされた。

 翻訳家の鴻巣友季子さんは、《「日系移民文学」と向き合う点でも重要な作品》(週刊新潮・書評欄)と評している。( https://www.bookbang.jp/review/article/524981

 山本賞を受賞した佐藤多佳子さんは、1962年東京生まれ。1989年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。2007年『一瞬の風になれ』で本屋大賞と吉川英治文学新人賞を受賞。1997年刊行の『しゃべれども しゃべれども』は「本の雑誌が選ぶ年間ベストテン」の第1位に輝き、映画化もされている。近著に『聖夜』『第二音楽室』『シロガラス』などがある。

 受賞作の『明るい夜に出かけて』は、かつて有名ハガキ職人だった主人公が、大学を休学し、コンビニでバイトしながら、新たな仲間と出会っていく青春小説。彼らはSNSやニコニコ動画など現代的なコミュニケーション手段を用いて関係を深めてゆく。そうした時代性を取り入れながらも、自分の居場所を見つけたいという若者たちの普遍的な葛藤が明るく描かれている。

 作家の朝井リョウさんは、《この作品の素晴らしいところは、友情、恋心、若者たちの成長など、青春小説に臨む読者の期待に存分に応えてくれるだけでなく、この時代だからこそ生まれた新しい感情、人との繋(つな)がり方をとてもフラットに描いている点だろう》(読売新聞・書評欄)と評している。( https://www.bookbang.jp/review/article/520630

 また、文芸ジャーナリストの佐久間文子さんは、《人と人との空間的・心理的距離感が巧みに表現されている》(週刊新潮・書評欄)と評している。( https://www.bookbang.jp/review/article/519069

 三島由紀夫賞は1987年創設、「文学の前途を拓く新鋭の作品一篇」に授賞され、山本周五郎賞は1987年創設、「すぐれて物語性を有する新しい文芸作品」に贈られる。候補作品は以下のとおり。

■第三十回「三島由紀夫賞」候補作品
『リリース』古谷田奈月(光文社)
『青が破れる』町屋良平(河出書房新社)
『カブールの園』宮内悠介(文藝春秋)
『ビニール傘』岸政彦(新潮社)
『スイミングスクール』高橋弘希(新潮社)

■第三十回「山本周五郎賞」候補作品
『ずうのめ人形』澤村伊智(KADOKAWA)
『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子(新潮社)
『満潮』朝倉かすみ(光文社)
『不発弾』相場英雄(新潮社)
『敵の名は、宮本武蔵』木下昌輝(KADOKAWA)

Book Bang編集部
2017年5月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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