【手帖】ビジュアルが楽しい料理本

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 料理本って、だいたい料理をする人のためのものだろうけど、そんなに料理に熱心でなくても、眺めていると楽しい本を知人に紹介してもらった。

 『野菜』細川亜衣著(リトルモア・2000円+税)。野菜って。これまたシンプル。分類一覧とか純文学と間違われないか心配だ。野菜をああするとかこうするとか、健康になるとか簡単にできまっせとか、いろいろあるでしょうに。帯を見れば「旬の野菜50種を味わう」「最愛の野菜料理」の本だとわかるけど。

 内容も簡潔。レシピはさらっと。料理によっては、分量も記されていなかったりする。つまりは適量。〈食べる人の好みやその日の気分によって各人が決めるのがよいと、多くの料理について私は考えている〉だって。

 本書の特徴がよく出ているのが「我流スリランカカレー」だろう。材料一覧もなし。スパイスの量や組み合わせをその都度決めているから。その自由さに頬が緩む。

 裁ち落としの見開き写真があって、ページを繰ると材料一覧とレシピ、あとちょっとしたコツや余話が数行。写真、言葉、写真、言葉…とリズミカルな運びで読み手を引き込む。テキストは余白がたっぷりとられていて、詩のような印象。

 〈里いもはきれいに洗い、蒸籠(せいろ)に重ならないように入れて強火で蒸す。/ごくやわらかく蒸し上がったら、蒸籠ごと食卓へ運ぶ。/熱々のところで各自、皮をむき、/好みのみそと柚子(ゆず)こしょうを少しずつつけて食べる〉

 いいでしょう。ほくほくの里いもから立ちのぼる湯気や家族の笑顔が目に浮かぶ。

 写真を担当しているのは在本彌生さん。とくに飾り気のない日々の暮らしから、食卓の風景をさりげなく切り取る。お金と時間を費やす豪華な料理も悪くないけど、やっぱり無理せずおいしいのが幸せだよね。そんなことを感じさせてくれる。

 巻末に収められた「塩」「油」「甘み」「酸味」「香り」についての文章や、食べ物についてのエッセーからは、著者の料理に対する考え方がよく伝わってくる。実用的な料理本だけど、ビジュアルブックとしても秀逸な一冊だ。(篠原知存)

産経新聞
2017年5月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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