第5回河合隼雄賞が決定 物語賞に今村夏子『あひる』 学芸賞に釈徹宗『落語に花咲く仏教 宗教と芸能は共振する』

文学賞・賞

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 第5回河合隼雄物語賞・学芸賞の選考会が24日、京都市内にて行われ、物語賞に今村夏子さんの『あひる』(書肆侃侃房)、学芸賞に釈徹宗さんの『落語に花咲く仏教 宗教と芸能は共振する』(朝日新聞出版)が選ばれた。

 物語賞に選ばれた『あひる』は、一匹のあひるを飼うことになった家族の変化を通し、日常の危うさが描かれた表題作に加え二編を収録した短編集。他二編は、おばあちゃんと孫たち、近所の兄妹とのふれあいを通して、揺れ動く子供たちの心の在りようを、あたたかくそして鋭く描いた「おばあちゃんの家」「森の兄妹」。表題作は第155回芥川賞候補にも挙がっていた。

 書評家の石井千湖さんは、今村さんの筆致を《レッテルを張らず、静謐(せいひつ)な文章でただありのままのさびしさを描く》と評し、それにより《型にはめないことによって、ふだんは目に見えないものが生々しく視界に映り込んでくる。たった百四十ページで世界の見方が一変する本だ》(朝日新聞・書評欄)と絶賛している。( https://www.bookbang.jp/review/article/525429

 また、文芸ジャーナリストの佐久間文子さんは、《『あひる』を読むと、何もないのに毎日が不安と冒険と失意と喜びの連続だった幼いころの気持ちをありありと思い出す》と評し、《彼女の小説が「ちょっといい話」で終わらないのは、ところどころに不穏なものが埋め込まれているから》(週刊新潮・書評欄)とその特異性を解説している。( https://www.bookbang.jp/review/article/522762

 今村夏子さんは1980年広島県生まれ。2010年『あたらしい娘』で第26回太宰治賞を受賞。「こちらあみ子」と改題、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で2011年に第24回三島由紀夫賞受賞。2016年文学ムック「たべるのがおそい vol.1」掲載の「あひる」が2016年上半期芥川賞候補となる。

 学芸賞に選ばれた『落語に花咲く仏教 宗教と芸能は共振する』は、説教と語り芸能の深いつながりを古代から現代までつないで読み解く一作。宗教学者であり僧侶でもある著者が、小さい頃から親しんできた落語と宗教がじつは密接なつながりをもつことに着目し、歴史的に文化的に人間学的に読み解く。

 釈徹宗さんは1961年大阪生まれ。宗教学者・浄土真宗本願寺派如来寺住職、相愛大学人文学部教授、特定非営利活動法人リライフ代表。専攻は宗教思想・人間学。大阪府立大学大学院人間文化研究科比較文化専攻博士課程修了。その後、如来寺住職の傍ら、兵庫大学生涯福祉学部教授を経て、現職。

 今年で5回目を迎える同賞は、2013年に一般財団法人河合隼雄財団が創設。物語賞は、人のこころを支えるような物語をつくり出した優れた文芸作品に与えられ、河合隼雄が深く関わっていた児童文学もその対象とする。学芸賞は、優れた学術的成果と独創をもとに、様々な世界の深層を物語性豊かに明らかにした著作に与えられる。選考は1年ごとに行い、毎年3月からさかのぼって2年の期間内に発表・発行された作品を選考対象とする。選考結果の公式発表は「新潮」「webでも考える人」で行い、候補作の公表はしていない。

Book Bang編集部
2017年5月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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