うき世と浮世絵 内藤正人 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

うき世と浮世絵

『うき世と浮世絵』

著者
内藤 正人 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784130830713
発売日
2017/04/28
価格
3,520円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

うき世と浮世絵 内藤正人 著

[レビュアー] 清水勲(漫画・諷刺画研究家)

◆戯画的な側面捉える

 浮世絵とは「江戸時代に発展した多色刷木版画という大衆向け絵画」といったぐらいの知識しかない人々に、本書は様々な浮世絵の“顔”を見せてくれる。まずは「浮世」「浮世絵師」の本来の意味からスタート。絵師やその作品に接した文化人の意識に深入りするなかで、浮世絵世界の微妙な様相を露呈させる。

 「うき世」には「当世」と「好色」の二義、またはその両義が同時に備わっている、という説明は納得がいく。しかし、浮世絵を普及することに貢献した菱川師宣は「浮世絵師」と呼ばれることを避け、「大和絵師」あるいは「日本絵師」を生涯使用していたというエピソードから浮世絵の本質が見えてくる、という。それは浮世絵の開祖といわれる岩佐又兵衛が「絵師土佐光信末流」と名乗っていたことと共通の認識だという。

 読み進めるうちに、非常に興味深い事実に気がついた。懐月堂安度(かいげつどうあんど)が「日本戯画」を署名に書き添えていたことだ。それは「日本戯画師」の意味で使ったのだろう。浮世絵の表現には戯画的要素が多分にある。たとえば「吹出し」表現が結構見られる。「コマ」表現や「連続絵」表現さえ見られる。妖怪絵などは戯画的表現の極致といえよう。

 このように、研究紹介書であり啓蒙書(けいもうしょ)である本書は、浮世絵に関する新たな発見を人々にもたらしてくれる。

 (東京大学出版会・3456円)

<ないとう・まさと> 慶応義塾大教授。著書『江戸の人気浮世絵師』など。

◆もう1冊 

 内藤正人著『浮世絵とパトロン』(慶応義塾大学出版会)。天皇や将軍、諸大名が愛した浮世絵の名品の数々を紹介。

中日新聞 東京新聞
2017年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク