世界スタジアム物語 後藤健生 著

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世界スタジアム物語 後藤健生 著

[レビュアー] 市川紘司

◆巨大空間、転用の歴史

 近代建築では形態が機能に従うことがしばしば称揚された。しかし歴史上の建築を見れば、形はそのままに用途だけが変わる、という事例は少なくない。有名なのは古代ローマの円形闘技場で、住居や要塞(ようさい)に転用されたものが多く残っている。建築物を建てるには相応のコストがかかる。ゆえに用途を転じつつ長期的に継承される方が自然と言えよう。

 古代ギリシャを起源とし、近代以降の世界中で建てられてきたスタジアム建築もその形態が機能に完全には従わない。今でこそ単一競技専用も多いが、二十世紀前半には稼働率を上げるため兼用が一般的だった。旧ヤンキースタジアムも陸上競技に転用できる構造だったというから興味深い。その他、兵站(へいたん)や政治セレモニー等、巨大な空間性を活(い)かした転用例は枚挙に暇(いとま)がない。本書を読めば、近代スポーツの発祥地イギリスをはじめとする世界各地の有名スタジアムが、いかに当地の歴史や自然風土を反映しながら生み出されてきたか、よく分かるだろう。

 日本のスタジアムについても論述は詳しい。その将来像が検討される最終章では、先進的なモデルとして、新国立競技場問題後に建った市立吹田サッカースタジアムと北九州スタジアムを紹介。民間寄付や複合施設化等の試みにより、市民に開かれ、様々に利用されるスタジアムが今後も作られるべきことを提言する。

 (ミネルヴァ書房・2700円)

<ごとう・たけお> サッカージャーナリスト。著書『日本サッカー史』など。

◆もう1冊 

 後藤健生著『国立競技場の100年』(ミネルヴァ書房)。どのようにして生まれ、何が行われたか。その歴史をたどる。

中日新聞 東京新聞
2017年6月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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