知らないと損!「税金」がわかるマンガ『ゼイチョー! ~納税課第三収納係~』|中野晴行の「まんがのソムリエ」第46回

中野晴行の「まんがのソムリエ」

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税とお金の知識で人を救う美女
『ゼイチョー! ~納税課第三収納係~』慎結

 今年度分の住民税決定通知が届いた。
 これまでに払った住民税で、私にとって一番しんどかったのは、会社を辞めてフリーになった翌年の住民税だった。サラリーマン時代は給与天引きなのでまるで気にしていなかったが、届いた通知の金額は想像以上に大きかった。収入はまったくなかったので払えない。ずっと無視していたら「督促状」が「催告書状」になってしまった。前職が金融関係だったので、このあといよいよ「差押事前通知書」が届くことは知っていた。で、相談するため送付書に書いてあった役所の窓口まで恐る恐る足を運んだ。怖いところだと思ったのだ。おそらく頭ごなしに叱責されるものだと想像していた。ところが、担当の人はおだやかな大阪弁でこちらの事情を聞いてくれて、「とりあえず退職した年の国税確定申告をしてみましょう。9月末で退職ならおそらく還付金が戻るはずです。それで払える分だけいただいて、残りを分割納付にしましょう」と言ってくれたのだった。確定申告の時期なんてとっくに過ぎていると思い込んでいたが、還付申告は遅れていてもできることも教えてくれて、ほっとした。
 あの頃のいろんなことを、しみじみ思い出しながら読んだマンガが、今回ご紹介する慎結(しん・ゆい)の『ゼイチョー! ~納税課第三収納係~』である。

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 舞台になるのは幸野(みゆきの)市役所納税課。幸野市の人口はおよそ20万人。徴税率は87%で周辺自治体ではトップ。これを支えているのが納税課の面々だ。徴税吏員は収納第一係から第三係までの20人。庶務係が5人。ほかに嘱託と臨時職員計2名が配置されている。主人公の百目鬼(どうめき)華子は、収納第三係に配属されたばかりの新人。クールビューティで行動は予測不能だが、仕事には情熱を持っている。第三係には、ほかに温厚でお父さん的存在の係長、華子の指導係の饗庭(あいば)蒼一郎、先輩の原田宰(つかさ)と増野環(めぐる)がいる。

 税金をめぐるドラマといえば、伊丹十三の映画『マルサの女』のように、巧妙に税金を逃れる悪人を徴税担当者が執念で追い詰めていくというストーリーが多いが、このマンガでは、滞納者のほとんどは払えない事情があって苦しんでいる人たちだ。病気の母親を抱えバイトでかつかつの暮らしをしている女性や、連帯保証をした相手に逃げられて借金を背負った和菓子店の店主、再開発で地価が上がったために固定資産税が払えなくなり、そのことを夫に伝えられない主婦。同棲相手が職を失ってしまった女性店員。妻を亡くして、誰にも頼らずに仕事と子育てを両立させようとするサラリーマン……。中には、父親の権力を振りかざして「自分は納税なんてしなくていい人間なんだ」と嘯く(うそぶく)阿呆ボンも出てくるが、大半は払いたくても払えない人たちだ。
 実は、華子には7歳の時に母親が税を滞納したことによる強制執行を経験した、という過去があった。そのとき、おびえる彼女を外に連れ出し、励ましてくれた女性徴税吏員・羽生に憧れてこの仕事を選んだのだ。払えない人間の苦しみや葛藤が身に染みている華子にとって、相手を助けることこそ、公務員としての勤めだ。

 未納者に華子が言う「公務員なめないでくださいっ」というタンカがカッコいいのは「頼ってくれよ」という気持ちがバックにあるからだろう。そして、彼女はこうも言う。
「私は 公務員として お金……税金や それに関わる方々に 真摯に向き合いたいんです」
 マンガは、1~3話完結形式で、華子が蒼一郎や仲間たちの助けを借りながら、滞納者たちの苦しみに正面から向き合い、税の知識を駆使して生活再建に向けた手助けをするという内容になっている。税金の使い道に不満をぶちまける人も出てくるし、保育所問題や介護と言った社会問題も取り上げられる。さらに、蒼一郎の過去や華子の家庭問題などが絡んで、物語全体を盛り上げていく。

 納税者の自宅を直接訪問する「臨宅」に使う公用車には「納税課」とわかる表記はせず、訪問の際も「納税課」とは名乗らない。市役所を会社と呼び変えているなど、あまり知られていないエピソードもさりげなく挟まれていて、職業マンガとして読んでもかなり読みごたえがある作品だ。
 ネットなどを見ていると「役所が知られたくない分割納付」なんて記事が結構出てくるが、決して知られたくないわけじゃない。このマンガを読むと、そんなこともよくわかる。納税者の家庭事情に踏み込む以上、納税者から相談を受けない限りはなかなか動けないからだ。華子や蒼一郎も常にそのジレンマに悩まされている。

 私もあの時、納税課を訪ねてよかったのだ。あのままなら、差し押さえを受けてアパートを追い出され、路頭に迷っていたはずだ。今こうして、この原稿を書いていることもなかったろう。改めてそう思った。

中野晴行(なかの・はるゆき)

1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。

eBook Japan
2017年6月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

イーブックイニシアティブジャパン

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