『かくも水深き不在』
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狂気と論理がせめぎあう幻想小説
[レビュアー] 図書新聞
『涙香迷宮』が二〇一七年版「このミステリーがすごい!」で一位に輝いた著者による連作短篇集。第一篇の廃屋で仲間たちが次々と鬼と化していく「鬼ごっこ」から、いきなり読者は迷子になるだろう。その印象は、ページをめくるごとに深まるばかりである。一体どこに連れていかれるのかという着地点を推理しながら読む楽しみもあるが、本作の幻想小説としての側面に淫してみたい。狂気と論理がせめぎあい、そこに乱舞する幻想の砂塵は、目を開けることも、呼吸することも許さない。「ゲーム三部作」が復刊されるなど過去作品も改めて注目を集めている著者だが、長らく予定のままである『匣の中の失楽』豪華本の刊行を心待ちにしているファンも多いはず。“かくも長き不在”とならないことを祈る。(4・1刊、三〇四頁・本体五五〇円・新潮文庫)