なぜ、肉食系はモテるのか?

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■ごちそうが「肉料理」なわけ

「さあ、今夜はごちそうにしよう! 何が食べたい?」
こう聞かれて、野菜料理を挙げるひとはまずいないだろう。ごちそうは肉料理に決まっている!(ベジタリアンを除いて) レストランでも、メインディッシュと言えば、肉か魚料理——つまり広義の「肉」料理——である。

肉(とくに赤身の)を多く摂れば健康に良くないことは、すでに数々の研究で知られている。また、地球環境への影響も大きく、肉食は全温暖化ガスの原因のうち最大で22パーセントを占める。
私たちの健康にも、地球環境にも良くない肉食。それでも、いっこうに減る様子はない。それどころか、急速な経済成長をとげる中国やインドなどで、肉食はすごい勢いで伸びている。また、米国などの先進国でも、肉の消費量は増えているのだ。

まるで人類は肉食に取りつかれているとでも言うように。私たちは、肉に魅了され、肉を愛し、肉がやめられない。いったい、なぜ? 

そのわけを、肉食の起源から、現代の販売戦略に至るまで読み解いたのが、
先頃刊行されたマルタ・ザラスカ著『人類はなぜ肉食をやめられないのか:250万年の愛と妄想のはてに』(インターシフト刊)だ。

以下、本書から興味深いトピックスを紹介しよう。

ほかの食べ物がまわりに豊富にあっても、肉食をやめられない状態は「肉飢餓」と呼ばれる。肉飢餓は生理的なものというより、文化的な問題だ。
たとえば、わが国でも「肉食系」という比喩があるように、恋愛やセックス、男らしさなどとも深くかかわる。

人類の祖先たちのような狩猟採集社会では、大きな獲物をしとめる男たちの狩りの腕前が評価される。賞賛されるのは、豊富な肉が家族の空腹を満たしてくれるからではない。
ハンターは食糧が乏しいときではなく、豊富にある時期に大きな獲物を追いかける。成果が得られないことも多く、危険も伴う。
肉が特別なのは、まさにそれが入手しがたい希少品だからだ。狩りは危険であり、その腕前は男たちの力の誇示となり、女たちにもモテる。実際、狩猟採集社会では、有能な狩人が若く働き者の妻を得て、狩りの下手な男よりも、たくさんの子どもをもつ傾向がある。

また肉は腐りやすく保存に向かないため、仲間とともに分け合って食べることによる喜びや一体感をもたらす。こうして肉と男らさしさや力とが結びつき、父権制社会の進展とともに富や権力を象徴するものともなる。
 

■肉が私たちを「人間」にした!

だが、人類と肉食とのつながりはもっと深い。なにしろ250万年の関係なのだ。初期のヒト属はもっぱら果実や葉を食べるベジタリアンだった。その後、250万年前頃に肉食が始まったのだが、その要因のひとつは気候の変化だったとされる。

人類の特徴である大きな脳は、肉食によってこそ発達した可能性が高い。大きな脳はエネルギーを大量に消費する。つまり、脳が大きくなるには、ほかの臓器に回しているエネルギーを切り詰める必要があった。その臓器とは腸であり、腸が短くなるためには、カロリーの高い食事が欠かせない。それこそが、肉だった(火による調理で、いっそう肉から栄養を吸収しやすくなった)。
また、狩りは精力的な活動で、厚い体毛に覆われていたら過熱状態に陥ってしまう。そのため、体毛の薄い祖先たちが有利になり、進化していったのかもしれない。

さらに仲間たちとの組織的な狩り、獲物を分け合うこと、その競争や駆け引きなども、ヒトの社会生活を複雑にし、脳を発達させる要因となっただろう。従来は消化に費やしていた時間を、社交に当てることもできた。こうして、さらに集団が大きくなると、また脳も大きくなっていく。

人類の祖先が生まれ故郷のアフリカから出て、地球各地へ広がることができたのも、肉食だったことが大いに貢献している。植物は地域の生態によって異なり、どれが適切な食材なのかすぐには見極められない。ところが、動物の肉は哺乳類や鳥類ならどれでも食べられる。
やはり肉は特別だった。私たちが「人間」になったのも、肉食のおかげかもしれない。

インターシフト
2017年6月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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