謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」 加藤直樹 著

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謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」 加藤直樹 著

[レビュアー] 浦辺登(文筆家)

◆孫文を支え、追求した平等

 表紙を飾る宮崎滔天(とうてん)は、中国革命の孫文を支援した人として知られる。自身の半生をつづった『三十三年の夢』は中国語に翻訳され、中国の革命家たちの愛読書となった。現代に至るも国内外での愛読者は多い。ただ、残念なことに、原典を読破するには解釈を必要とする。ゆえに、著者は底本に補記する形で本書を綴(つづ)った。

 滔天は明治新政府が誕生して間もなく、熊本の荒尾に生を享(う)けた。いわば維新という革命直後の日本を生きた人だった。しかし、器が新しくなっただけで、一向に世の中は良くならない。全ての人々が平等に生を享受し、権力に支配されることのない社会を生み出さなければならない。その理想を家訓として受け継いだのが滔天だった。

 なぜ、著者は本書を世に問うたのか。序章、終章を含め全十四章にもなる大部だが、書き綴らねばならないと衝(つ)き動かす要因は何だったのか。それは、かつて、滔天のような人物が日中間にいながら、現代日本には不在だからだ。政治的であり、打算的であり、歴史認識の乖離(かいり)であったりする関係を憂慮するからだった。見返りの無い、滔天のように純粋に理想を追求する生き方を再認識する必要があると考えたからである。

 理想と現実という二律背反の世界を滔天は煩悶(はんもん)した。それでも、もっとも理想としなければならないのは、社会の底辺で蠢(うごめ)く人々への平等な富の配分であり、権力に左右されない社会の実現だった。そのことは、孫文が墨書した「天下為公」が示している。これは滔天と孫文とを強く結びつける共通認識だった。

 中国革命は、少しずつ、周辺の国々に影響を及ぼし始めながら、孫文も滔天も、その中途において生を終えてしまった。しかし、両者の理想が世界に波及したことは事実である。それを著者は「世界革命としての中国革命」と表現したのだった。滔天の再評価到来を願うばかりである。

(河出書房新社・3024円)

<かとう・なおき> 1967年生まれ。フリーライター。著書『九月、東京の路上で』。

◆もう1冊 

 榎本泰子著『宮崎滔天』(ミネルヴァ書房)。孫文との出会いと革命運動、浪曲師・著述家としての活動など波乱の生涯を描く評伝。

中日新聞 東京新聞
2017年6月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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