『万葉集から古代を読みとく』
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万葉集から古代を読みとく 上野誠 著
[レビュアー] 島内景二(国文学者)
◆現代までを貫く文化
日本文化の全景は、どの時代に観測点を据えれば一望できるのか。実は、平安時代から観測するのが大勢だった。だから、わが国の古代研究は困難を極めた。
日本では、古代復興のルネサンスは遅れた。王朝文化である「古今集」と「源氏物語」が、江戸時代の中期まで、日本文化の玉座に君臨したからだ。
「万葉集」「古事記」などの古代復興の大きな波は、三度あった。賀茂真淵(かものまぶち)たちの国学、折口信夫(おりくちしのぶ)たちの古代学、そして、上野誠たちの「第三の波」である。
真淵は、女性的な王朝文化を否定し、「ますらおぶり」の古代文化に光を当てた。正岡子規の「古今集」攻撃も、その延長線上にある。彼らは、男性的な古代文化を蘇(よみがえ)らせて、外国の圧倒的な異文化と戦おうとした。だが、それでは世界文明と調和できない。一方で、「源氏物語」を愛した折口の独創的な古代学は、実証的ではなかった。
上野は、先人たちの古代研究の情熱を受け継ぎつつ、新しい古代を発見した。古代と王朝は対立概念ではなく、科学的な説得力を伴って結ばれた。すると、古代から現代までを貫く、「組み合わせ」と「ずらし」の日本文化が見えてきた。
古代と王朝を結ぶ「和」の力で二十一世紀の日本文化はバージョンアップし、世界と結びつき、「平和」な未来を創造できる。上野の希望が、そこにある。
(ちくま新書・864円)
<うえの・まこと> 1960年生まれ。奈良大教授。著書『魂の古代学』など。
◆もう1冊
藤井一二(かずつぐ)著『大伴家持(おおとものやかもち)』(中公新書)。万葉集の編纂(へんさん)にも関わったとされる歌人の謎の多い生涯を解き明かす。