<東北の本棚>漁師の死生観から学ぶ

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海と生きる作法

『海と生きる作法』

著者
川島秀一 [著]
出版社
冨山房インターナショナル
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784866000251
発売日
2017/03/14
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>漁師の死生観から学ぶ

[レビュアー] 河北新報

 古来、人々は海の幸を分かち合い、危険性を含めて海全体を受け入れてきた。漁師の自然観や死生観に関する聞き取りを重ねてきた民俗学者が、東日本大震災を受けてつづった論考を1冊にまとめた。
 全国的に海難事故の死者と大漁の関わりを示す伝承は多い。宮城県南三陸町では漁船が水死体を引き揚げる時、「シビとれた」と表現する。シビはマグロをも意味する。水死体は西日本などでエビスと呼ばれ、大漁につながるとされる。気仙沼市では水死者と魚介類を同時に供養する風習がある。著者はいずれも「人の命と魚の回帰的な生命観の表れ」と分析する。
 漁師たちは音に対して敏感だ。船がいないのに人の声が聞こえる船幽霊の話は瀬戸内など各地にある。気仙沼市大島に伝わる「導き地蔵」の昔話は津波の予兆を題材とし、広く知られてきた。一見、奇怪な出来事が日常生活の一部に組み込まれ、受容されたことを示しているという。
 本書は中核となる「漁師の自然観・災害観」の章に加え、巨大な防潮堤が海と人を分断する危険性を論じた「三陸の海から」、伝承の役割に力点を置いた「海の傍らで津波を伝える」、津波で流された木造漁船を復元した名取市閖上などを取り上げた「動き始めた海の生活」の各章で構成される。
 現代社会はリスク管理や安全を重視するあまり、無駄を省いて効率ばかり優先する。著者はこうした風潮が、自然の中で人間や生き物の生死を見つめてきた漁師の生き方を否定するのではないかと危惧する。今後の防災対策を考える上で重要な視点だ。
 著者は1952年気仙沼市出身。同市のリアス・アーク美術館副館長、神奈川大特任教授を経て2013年から東北大災害科学国際研究所教授。
 冨山房インターナショナル03(3291)2578=1944円。

河北新報
2017年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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