【手帖】「中央公論」創刊130周年記念イベント

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トークイベント「教養主義と論壇の現在」の様子

 日本最長寿の月刊誌である論壇誌『中央公論』(中央公論新社)。明治20(1887)年の前身誌創刊から130年を迎えたことを記念し、教養主義や論壇史に詳しい教育社会学者の竹内洋・関西大東京センター長と同誌の斎藤孝光編集長とのトークイベント「教養主義と論壇の現在」が東京都内で開かれた。

 『中央公論』をはじめとする論壇誌(総合雑誌)は、専門家共同体であるアカデミズムと世論形成を主導するジャーナリズムの中間に位置し、長らく日本知識人の公共言論空間の中核として機能してきた。

 論壇が成立するには、知的な話題に関心が深い読者が相応の厚みを持った層として存在する必要がある。同誌は吉野作造らが論陣を張った大正時代に黄金期を迎えたが、同時代に花開いたのが岩波文化に代表される教養主義。竹内氏は「総合雑誌と教養主義には、密接な関係がある」とした上で、その背景に大正中期以降、大学などの高等教育機関が飛躍的に拡充された“高等教育の爆発”があるとする。「大正教養主義は思想史だけで考えてはだめで、教育インフラの拡充という面も見なければ」

 竹内氏はまた、教養主義を考える際に大学教員など文系インテリの教養ばかりが語られてきたのは不十分で、政財界のテクノクラートには別種の教養が綿々と存在してきたのではないか、とも指摘。「“知者の教養”に対して“治者の教養”というべきものがある。それはかつては安岡正篤の本であったし、今も司馬遼太郎や塩野七生さんの本にそうした面があるのでは」

 近年は論壇誌の休刊が相次ぎ、教養の衰退も嘆かれる。斎藤編集長からそうした現状をどう考えるか問われた竹内氏は、「(教養をタイトルにした本を多数刊行している)池上彰氏や佐藤優氏の本はよく売れている。教養を文系インテリのものばかりに狭く限定して考えてはだめで、岩波文化は終焉(しゅうえん)したが、“池上・佐藤文化”が台頭した、と考えれば未来がないわけではないのでは」と応じるなど、充実した議論が交わされた。(磨井慎吾)

産経新聞
2017年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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