ロジックの外にある「絵本の言葉」を読む3冊

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ロジックの外にある「絵本の言葉」を読む

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 小説の言葉とも漫画のてざわりともまったく違う。ささやかで自由で不穏な世界――大人になってから「絵本」の扉をひらくと、子供の頃よりもずっと切実に、そこにあるものを強く欲している自分に気づく。

 日々の生活を営む上で擦り減らしてしまったもの。現実と折り合いをつけるために鈍磨させてきたもの。それらの存在にくっきりとした輪郭を与えてくれる名エッセイ集のうちのひとつが歌人・穂村弘の『ぼくの宝物絵本』。オールカラーの図版と共に紹介されるのは、いずれも〈脳から液が出る〉(!)ような、取り替えのきかない輝きを湛えた絵本の姿だ。

〈混沌とした「現実世界」のなかから固有の意味と価値をもつ「ひとつの世界」を切り出してくる〉――穂村弘が説く絵本の役割は、まさしく歌人の所作とも通ずる。実際、穂村の切り出す言葉は、ロジックの埒外にあるような独特のオーラを撒き散らす絵本の世界にぴたりと寄り添い、その概要をすこしずつ確かめていく。例えば、〈やりたい放題にして駄目さの小宇宙〉があれば、〈それを受け入れると、自分が傷つくような気がする作品〉もある。それらがどの絵本のことなのか、実際に読んで確かめてほしい。

 本来なら説明を拒絶するような危うい世界を、見事としかいいようのない手口で言語化させていく。江國香織の『絵本を抱えて 部屋のすみへ』(新潮文庫)は、国内外の名作絵本の名ガイドにして、言葉そのものが持つ美しさを十全に味わうことのできる傑作エッセイだ。彼女にいわせれば、「物語」というのは〈こっそり体内にしずむもの〉であり、「詩」というのは〈文章の形態ではなく、あるとき言葉が備えてしまう性質〉なのだ。思わず声を上げたくなるほど鮮やかな表現の数々に陶然となる。一生ものの本棚のすみにぜひ忍ばせてほしい一冊だ。

 絵本を絵本たらしめているものとは何か――それは、絵に従属しない、自立した強度と美しさを備えた言葉の力なのだろう。かのアンデルセンの連作短篇集『絵のない絵本』は、そんな凛とした真実を教えてくれる。

新潮社 週刊新潮
2017年7月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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