偽りの経済政策 格差と停滞のアベノミクス 服部茂幸 著

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偽りの経済政策

『偽りの経済政策』

著者
服部茂幸 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004316619
発売日
2017/05/20
価格
902円(税込)

偽りの経済政策 格差と停滞のアベノミクス 服部茂幸 著

[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)

◆白旗揚げて次の手を

 挑発的なタイトルだ。

 アベノミクスは当初、日銀による異次元の金融緩和、政府による機動的な財政政策、成長戦略の「三本の矢」によってインフレ期待をつくり出せば、デフレから脱却し、実体経済は回復すると約束していた。たしかに、一時は円安・株高になり、そのままうまくいくかに見えたときもある。だが、著者によれば、円安にもかかわらず輸入が急増し、円安になった分、実質賃金や家計の実質所得が減少し、消費も停滞した。

 他方、円安のおかげで輸出企業の利益は急増し、とくに大企業は巨額の利益をあげたものの、それを設備投資や賃上げには回さず、内部留保している。皮肉なことに、いまでは政府・日銀筋までが経済界に賃上げを要請しているが、はかばかしい成果は見られない。しかも毎日、株価の上下が報道されるが、株高は富裕層の所得と富を増やすだけで、貧困層の生活は少しもよくならない。

 要するに、著者は政府・日銀に対して、アベノミクスの失敗の言い訳(例えば消費増税が需要減につながった)を探すのではなく、潔く白旗を揚げるべきだと言っているのだ。政策の失敗を反省することから次の手が出てくるのであり、「偽り」を述べても事態は一向に改善しない…。というように、舌鋒鋭く政府・日銀批判を繰り広げた痛快な一書である。

(岩波新書・886円)

<はっとり・しげゆき> 1964年生まれ。同志社大教授。著書『新自由主義の帰結』。

◆もう1冊 

 浜矩子著『どアホノミクスの断末魔』(角川新書)。安倍政権が進める「大日本帝国会社」づくりの危うさを指摘。

中日新聞 東京新聞
2017年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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