クソッタレの世界を自由に生きろ!!『ジャンク・ランク・ファミリー』高橋ヒロシ|中野晴行の「まんがのソムリエ」第49回
中野晴行の「まんがのソムリエ」

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- ジャンク・ランク・ファミリー(1)
- 価格:660円(税込)
友情と信頼と知恵が狂った地上を変える!?
『ジャンク・ランク・ファミリー』高橋ヒロシ
喧嘩に明け暮れる不良たちの熱く固い友情を描いたヤンキー・マンガの名作『クローズ』の作者・高橋ヒロシが久々の新作単行本『ジャンク・ランク・ファミリー』を発表した。描かれる世界は、学園ではなく、荒廃した近未来の地球。SFなのである。
大丈夫かなあ、といささか不安になりながら読み始めたら、これが滅法面白い。さっそく、このメルマガでも紹介しよう。
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発端はこうだ。
ある大陸に起きた大地震をきっかけに、世界各地で戦争が勃発。核兵器と生物化学兵器によって、地球全体が放射能や化学物質に汚染されていた。混乱の中で、社会秩序と正義が失われた世界では、食料と水とガソリンを奪い合って人と人が争っていた。さらに、感染した者は目が真っ黒になり人間ではなくなってしまう「黒目」と呼ばれる原因不明の感染症が蔓延。黒目と化した怪物たちが人間を襲い始めた。
ここまで書くと、永井豪の『バイオレンスジャック』や武論尊&原哲夫の『北斗の拳』のようなマンガを想像する方も多いのではないかと思う。が、そこは高橋ヒロシである。作品の根っこには「クソッタレの世界」を自由に生きる男たちの熱き友情がどーんと据えられ、心躍らせるドラマが展開される。
主人公のルカは16歳。祖父をギャング団「べべルズ」のクレイジーレザーに惨殺され、復讐のためにクレイジーレザーを殺害。ベべルズの頭でクレイジーレザーの兄・ファジーマジーは、部下のレッド小隊にルカを生きたまま捕らえるように命じた。彼のペットであるうさぎと猫をあわせた奇妙な生き物・ドントとともに小隊をかわすルカ。だが、ついに拘束された彼はトラックのクレーンに生きたまま吊るされ、ベべルズのアジトに運ばれることになった。
そのとき、小隊のトラックに前に奇妙な6人組が現れた。6人は、あっという間にレッド小隊を全滅させた。
彼らの名は、「ジャンク・ランク・ファミリー」。ギャングだ。ギャングの中にはベべルズのように縄張りを持つ<イン・サイド・ギャング>と流れ者の<アウト・サイド・ギャング>がある。ジャンク・ランクは、アウト・サイドだ。水とガソリンと食料を求め、戦いながら旅を続けている。今回の狙いも、ベべルズのトラックに積まれた水とガソリンだった。つまり、クレーンに吊るされたルカは予期せざるお荷物だ。
ファミリーの名前である「ジャンク・ランク」の由来は、元々はジャンクとランクの兄弟が作ったチームだから。少しずつ仲間を加えていったが、肝心の兄弟はもういない。現在のリーダーは「シャチ」。仲間やファミリーを守るためには手段を選ばない、という強い信念を持つ男。ナイフの使い手だ。
副リーダー格のシドは弓矢の名手。シャチに劣らず仲間思いだ。メンバーの食料係がケチャップ。怪力の持ち主で、デブで若ハゲ。
いつも仮面で素顔を隠しているのがピピ&ポポの二人組。コンビネーションで戦うことが多い。仮面の下の顔と上半身はそれぞれ半分がケロイド状になっている。なぜそうなったのかは語られていない。偵察係はターボ。黒人の血が流れているが、両親のこともいつ生まれたのかも知らない。呼吸器系に障害があり、チリや粉塵を避けるために奇妙なマスクをかぶっている。しかし、足は抜群に早く動きも敏捷で、偵察の能力は高い。
自由の身になってそのままファミリーと行動を共にすることになるルカ。彼にはファミリーが自分を仲間と同じように扱ってくれる意味がわからなかったが……。
現在出ている2巻までで判断するのもどうか、とは思うが、ストーリーを支えるのは力や恐怖で配下を縛って強大化を図るギャング対、信頼によって仲間を増やしていくギャングという対立構造なのだろう。
ベべルズの支配下にあったギャング団「ザボ・ローチェ」によって拉致されたシドを奪い返したシャチが、ザボのリーダー・ザジに、ジャンク・ランクが見つけた水源の水を使う権利と交換に山から水を引く工事を手伝えと提案する展開などにその気配を垣間見ることができる。
その中でルカは、知恵と勇気で未来を拓く新たなリーダーに成長していくのではないだろうか。救われてまもなく、ルカは「黒目」を避けて水源にたどり着く方法をシャチたちに教えて、その存在感を示す。
そして、彼の運命のキーワードになるのが死んだ祖父が残した言葉だ。
「復讐は過去に捕らわれること! お前にはそーなってほしくない ひたすら前に進むんだ この狂ってしまった世の中を変えるような男になるんだ いいな」
もちろん、それまでには、まだまだ紆余曲折がありそうだ。もしかすると、仲間を失うような展開も待っているかもしれない。それも成長のために必要な試練なら、受け入れるしかないだろう。そんなふうに勝手に予想しながら読むのもまた、楽しいのである。
中野晴行(なかの・はるゆき)
1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。
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