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大人の心にこそ響く秀逸なる児童文学
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
重い病を患う母親と二人で暮らし、学校では孤立している少年コナー。ある夜、彼の前にイチイの木の怪物が現れ、「三つの物語を聞かせるから、四つ目の物語はお前が話せ」と言う。夜ごと怪物が語る物語は、少年にとって非常に理不尽な内容だ。やがてコナーの番が来た時、彼が語る物語とは。映画が公開されて話題となっている『怪物はささやく』(池田真紀子訳)は、夭逝したイギリスの児童文学作家シヴォーン・ダウドのアイデアを、米国出身の作家パトリック・ネスが完成させたカーネギー賞受賞作。児童文学といっても、ここに描かれる深みと痛み、そして救いの形は、大人の心にこそ響くはず。映画化作品もネス自身が脚本を担当、こちらも決して子ども騙しではない、ダークなテイストのファンタジー映画となっている。
児童向けのようで大人も楽しめる作品といえば、最近ではキャンデス・フレミングのゴーストストーリー『ぼくが死んだ日』(三辺律子訳 創元推理文庫)も。深夜、少女のゴーストに導かれて子どもたちばかりが埋葬された墓地に足を踏み入れてしまったマイクは、少年少女に囲まれ、一人一人の死んだ理由に耳を傾けることになる。通販で買った“即席ペット”が恐ろしい変貌を遂げた……など、死に至る物語はどれも不気味なもの。奇妙な話ばかり並ぶのに、次第に舞台であるシカゴの町の歴史が見えてくるうえ、ラストには不思議と爽快感がある。
子ども向けでも大人向けでも著名な作家といえばロアルド・ダールだろう。『チョコレート工場の秘密』などの児童書と並び、人気が高いのがブラックな笑いを誘う大人向けの短篇集『あなたに似た人』(田口俊樹訳ハヤカワ・ミステリ文庫)。新訳の新装版は二分冊。『I』に収録されているのは、美食家の男たちのワインの銘柄当ての賭けが意外な結末を迎えるまでをスリリングに描く「味」や、別れを告げられた妻が咄嗟にある品で夫を撲殺し、証拠隠滅を図る「おとなしい凶器」など11篇。『II』では国内単行本未収録の2篇を加えた6篇が楽しめる。