講談社3賞が決定 ノンフィクション賞に梯久美子さん、エッセイ賞に小泉今日子さん、科学出版賞に中川毅さん

文学賞・賞

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 株式会社講談社主催による第39回講談社ノンフィクション賞および第33回講談社エッセイ賞、第33回講談社科学出版賞が20日に発表された。

 ノンフィクション賞は梯久美子さんの『狂うひと―『死の棘』の妻・島尾ミホ―』(新潮社)と中村計さんの『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』(集英社)が選ばれた。

梯久美子『狂うひと―『死の棘』の妻・島尾ミホ―』(新潮社)と中村計『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』(集英社)
梯久美子『狂うひと―『死の棘』の妻・島尾ミホ―』と中村計『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』

 梯久美子さんは、1961年熊本県生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。『散るぞ悲しき』で2006年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞、同書は米・英・仏・伊など世界8カ国で翻訳出版されている。

『狂うひと―『死の棘』の妻・島尾ミホ―』は、未発表原稿や日記等の新資料から島尾敏雄の名作『死の棘』に隠された事実を掘り起こし、妻・ミホの切実で痛みに満ちた生涯を辿る評伝。第67回芸術選奨文部科学大臣賞、第68回読売文学賞(評伝・伝記賞)を受賞している。

 梯さんは、『死の棘』の装幀をした司修さんとの対談で、書き終えた今でも葛藤があると告白しつつ、「没後に山のような未公開資料が出てきてわかったんですが、ミホさんには隠していたことがたくさんあった。私には、作家としてのミホさんをもっと大勢の人に知ってほしい思いがありまして、そのためには彼女が真情を吐露した日記やメモ、発表しなかった原稿などを取り上げることがどうしても必要でした。(中略)「作家・島尾ミホ」を書くのだから、私も書き手として覚悟が要る。一切の遠慮はやめようと決めました。」と執筆する際の心情を明かしている。
https://www.bookbang.jp/review/article/519790

 文芸評論家の川村湊さんは、《「島尾敏雄」は、島尾ミホの「作品」なんだと、あらためて思わざるをえなかった。ミホとトシオが、二人して、協力して作り上げようとした「文学」の神話に、私はすっぽりとはまり込んでいたのである》(新潮社 波)と評している。(https://www.bookbang.jp/review/article/519909

 中村計さんは、1973年千葉県生まれ。同志社大学法学部卒。スポーツ新聞記者を経て独立。スポーツをはじめとするノンフィクションをメーンに活躍する。『甲子園が割れた日』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞を受賞している。

『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』は、全国高校野球大会で、駒大苫小牧を連覇へ導いた香田誉士史監督の、栄光と挫折の舞台裏を長期に亘る丹念な取材で解き明かした作品。

 ノンフィクションライターの稲泉連さんは、《本書を「なぜ彼らは勝てたのか」式のサクセスストーリーとして読み始めた私は、途中からの物語の暗転に意表を突かれ、頁をめくる手が止まらなくなった。そしていま、本を閉じて思うのは、この作品は頂点に立った指導者がそれ故に抱え込んだ光と影を、清濁併せ呑んで描いた剥き出しの人間ドキュメントであったということだ》(読売新聞)と絶賛している。(https://www.bookbang.jp/review/article/518069

小泉今日子『黄色いマンション 黒い猫』(スイッチパブリッシング)と穂村弘『鳥肌が』(PHP研究所)
小泉今日子『黄色いマンション 黒い猫』と穂村弘『鳥肌が』

 エッセイ賞は小泉今日子さんの『黄色いマンション 黒い猫』(スイッチパブリッシング)と穂村弘さんの『鳥肌が』(PHP研究所)が選ばれた。

 小泉今日子さんは、1966年神奈川県生まれ。1982年に「私の16歳」で歌手デビュー後、女優、歌手として各方面で活躍。読書好きとしても知られており、これまでにも「小泉今日書評集」などの著書を発表してきたが、賞を取るのは初めて。受賞作『黄色いマンション 黒い猫』は雑誌「SWITCH」で2007年から連載している「原宿百景」をまとめた自伝的エッセイ集だ。

 穂村弘さんは、1962年生まれの歌人。1986年、連作「シンジケート」で第32回角川短歌賞次席。2008年に『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞、『楽しい一日』で第44回短歌研究賞を受賞。2013年には絵本『あかにんじゃ』で第4回ようちえん絵本大賞特別賞受賞している。受賞作『鳥肌が』は、さまざまな「こわい」を感知し、思わず「鳥肌」がたつ瞬間を、ユーモアを交えて描いたエッセイ集。

 作家の大竹昭子さんは、《可笑しいだけでなくて、こわい。こわいだけでなく鋭い。(中略)「怪談」と銘打たれたものより、実はこういう話のほうがずっとこわい。こわさの元がぜんぶ自分にあるとわかってしまっている故に、こわくてたまらない》(新潮社 週刊新潮)と評している。(https://www.bookbang.jp/review/article/517107

中川毅『人類と気候の10万年史』(講談社ブルーバックス)
中川毅『人類と気候の10万年史』

 科学出版賞は中川毅さんの『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』(講談社ブルーバックス)が選ばれた。

 中川毅さんは、1968年東京都生まれ。立命館大学古気候学研究センター長。専攻は古気候学、地質年代学で、主に「年縞」という細かい土の層の研究をしている。受賞作は、過去の記録から気候変動のメカニズムを迫った一作。

 講談社エッセイ賞と講談社科学出版賞は、1985年に創始された文学賞。それぞれエッセイと科学書籍を対象としている。また、講談社ノンフィクション賞はノンフィクションを対象として、1979年に創始された文学賞である。

Book Bang編集部
2017年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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