夏こそ読みたい!爽快!元祖スパイ・アクション『黒バイ将軍』南波健二|中野晴行の「まんがのソムリエ」第51回
中野晴行の「まんがのソムリエ」
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- 黒バイ将軍
- 価格:1,980円(税込)
忍術も使う秘密諜報部員が大暴れ
『黒バイ将軍』南波健二
暑い! 今回もスカッとできるマンガを読もう。
かつてスパイ・アクション劇画というジャンルがあった。世界転覆を狙う悪の組織の野望を主人公が単身乗り込んでたたきつぶす、という内容で、さいとう・たかをの『ゴルゴ13』はその系譜を現在まで引き継いでいる作品と言えるのではないか、と思う。
原型になったのは、イアン・フレミングの小説「007シリーズ」とそれを原作とした映画版シリーズだ。第2次世界大戦中に海軍情報部とMI6に在籍したフレミングはそのときの経験を元に1953年にシリーズ第1作『カジノ・ロワイヤル』を発表。亡くなった翌年に発表された『黄金の銃を持つ男』まで12冊の長編と、2冊の短編集を出している。映画版は1962年(日本公開は63年)の『007 ドクター・ノオ(日本初公開時は「007は殺しの番号」)から2015年の『007 スペクター』まで24作が作られた。日本では映画第3作『007 ゴールドフィンガー』が1965年の興行成績No.1に。アメリカやヨーロッパでも、似たようなスパイ映画がつぎつぎに作られ、大映(現・角川映画)や日活も日本を舞台にしたスパイ・アクション映画を製作。その流れが貸本劇画にも波及したのだ。
そういった作品は映画も劇画も、大人たちからは「中味がない」とか「荒唐無稽」とか「行き当たりばったりのB級作品」といった批判ばかり受けたが、子どもにとってはその荒唐無稽ぶりと秘密兵器、派手なアクションと少しのお色気が魅力だったのだ。
今回紹介する南波健二の『黒バイ将軍』も懐かしいスパイ・アクション劇画のひとつ。同級生の家にあった『週刊少年キング』で毎週、読んでいたという記憶がある。
***
主人公は黒バイ将軍ことダン・獅子丸。幼い時にアメリカで両親を失い、CIAのダン・ジョーンズに引き取られて成長。生き別れになった兄を捜すために日本に帰国して、おんぼろアパートに住み「危険屋」の看板を揚げている。その正体は、忍術も使うフリーの腕利き諜報部員で、日本秘密情報局の野々山部長の依頼を受けて困難なスパイ活動に協力している。
アパートの住民は、獅子丸の忍術の師匠で、なぜか管理人をしている逆影老人とその孫娘のさっちゃん。船乗りのバン・ブラド船長。ジャズ・ミュージシャンのジェームズ小判、芸術家の堂士太郎。老犬のレオ・ブラット軍曹。そして、逆影の友人で大金持ちの宮本武蔵老人が加わる。
最初の事件は、大金持ちの剛一揆が所有する西洋式の古城に潜んで世界征服を狙うナチスの残党(?)の野望を黒バイ将軍が打ち砕くというお話。彼らは城の地下で細菌爆弾などをつくり、戦争をしている国に売りさばいて資金を集めていたのだ。リーダーは年老いたヒットラーを思わせる謎の男。果たして彼は本物のヒットラーなのか?
冒頭から黒いオートバイにまたがった獅子丸と彼を追い詰める謎のオートバイ部隊の派手な追いかけっこで始まる。断崖を飛び越え、線路を走り、貨物車に飛び移る獅子丸。それを執拗に追い詰める敵の武装ヘリコプター。一応、舞台は日本のはず……。ここまでやったら警察が黙っていないだろうに、パトカーも白バイも出てこない。とうとう、敵のヘリが発射したロケット弾で獅子丸を乗せた機関車が大破。獅子丸は病院に担ぎ込まれたが、傷は浅く、修理した黒バイとともに剛一揆の古城を目指す。
一応、伏線のようなものや謎解き要素も含まれてはいるが、それはあくまでもオマケ。メインになるのは、アクションだ。南波健二の絵は今読んでもカッコよく、アクションシーンは迫力満点だ。悪者たちが獅子丸のフェイクにあまりにも簡単に騙されるのはどうかと思うが、これもスパイ・アクション劇画のお約束なのだ。携帯電話がない時代なので、伝書鳩が通信に活躍する、というのも素晴らしい。これはぜひいつか真似たいと思っている。
残念ながら映画のようなお色気要素はないが、クライマックスには、大スペクタクルも用意されていて、満足満足。
第2話は、第1話で敵の一味がつくっていたオールド・ライザー細菌を使う暗殺組織・スパイダーが総理大臣の命を狙う、というお話。新たな秘密装置が取り付けられた黒バイが大活躍。なんとまあ、水陸両用になって海の上にまで登場。このあたりは、「ゴールドフィンガー」で初登場したボンドの愛車・アストンマーティンDB5や『007 サンダーボール作戦』に出てくる秘密兵器の影響なんだろう。
やはり当時人気だった怪獣特撮ものを思わせる巨大水棲生物も登場して、リアルタイムで読んだ子ども時代は、第2部の方が好きだったのを覚えている。
今回、読み返してみて、問答無用のドライブ感こそが、少年マンガの面白さそのものだったなあ、としみじみ思ったのだった。
中野晴行(なかの・はるゆき)
1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。
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