『現代危機管理論 現代の危機の諸相と対策』公共政策調査会編

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『現代危機管理論 現代の危機の諸相と対策』公共政策調査会編

[レビュアー] 産経新聞社

 ■生き残る可能性を高める

 国内では地震や水害など自然災害による犠牲が相次ぎ、世界的には、テロや感染症の爆発的拡散(パンデミック)など、地球上どこにも安全地帯はない-。そんな世相を反映してか「危機管理」がブームだ。

 危機管理をテーマとする書籍は多く、内容も安全保障やテロを扱うものから防犯防災、企業における経営上の問題回避を説くものまで、千差万別だ。しかし、つまるところ、危機管理とは何なのか?

 ボーイスカウト運動の創始者で英陸軍少将だったロバート・ベーデン・パウエル(1857~1941年)は「備えよ、常に」という言葉を好んだ。

 パウエルはスカウト精神の神髄を「起こるかもしれないアクシデントや状況を事前に考えることにより、そのときに的確な行動をとれるように自己を律して心の準備をし、体を鍛えて身の準備を行うこと」と語っている。

 公共政策調査会の板橋功・研究センター長は「これこそまさに危機管理の要諦だ」と指摘する。

 「何が危機なのか」を想像し、できる限りの回避手段を考え、遭遇した場合に被害を最小化する-それを組織や個々人が日頃から意識することで、いざというとき、生き残る可能性が高まるのである。

 本書では、国家・社会の課題として国際テロ、サイバー攻撃、パンデミックと自然災害を、企業の課題として事件・事故、反社会的勢力と情報流出を、地域社会・個人の課題として防犯活動や女性・子供の安全対策を想定。それぞれの分野で危機と闘ってきたプロフェッショナル18人による“危機管理本”の決定版である。

 執筆者の一人、イラク戦争当時に日立製作所で安全管理に当たった小島俊郎氏は「守るのは生命とビジネス」との認識の下、現地の情報をどのように収集・分析し、物心両面でいかに備えたかを詳細に開陳している。北朝鮮による弾道ミサイルや国際テロの脅威で世界の安全情勢が混沌(こんとん)とする中、各地に駐在員を置く企業の関係者には留意してもらいたい教訓といえる。(立花書房・2500円+税)

 評・加藤達也(社会部編集委員)

産経新聞
2017年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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