[本の森 医療・介護]『ドクター・デスの遺産』中山七里/『花しぐれ 御薬園同心 水上草介』梶よう子
レビュー
『ドクター・デスの遺産』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『花しぐれ 御薬園同心 水上草介』
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[本の森 医療・介護]『ドクター・デスの遺産』中山七里/『花しぐれ 御薬園同心 水上草介』梶よう子
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
親しい人間を見送る段になったとき、願うのは「苦しませたくない」という思いだ。最後は安らかに旅立ってほしい、多少、死期が早くなってもかまわない。だが、今の日本では許されない。
中山七里『ドクター・デスの遺産』(KADOKAWA)は、死期が間近でありながら苦しんでいる患者に対し、依頼を受けて安楽死させる謎の医師を描く。
ある日、警察に一人の少年から通報があった。自宅に見知らぬ医師が現れ、病に伏せっている父に注射をしたところ、直後に息を引き取った。その男が父を殺したに違いない、と。
捜査一課の犬養刑事は不審に思い、その父を解剖にまわす。すると血中のカリウム濃度が異常に高いことが判明した。これは塩化カリウム製剤の注射によって殺害された可能性がある。調査を始めた犬養は、その妻が、ドクター・デスと呼ばれる医師に安楽死を依頼したことを突き止めた。
報酬は現金で20万円だけ。男性医師と女性看護師がやってきて注射を打つ、このドクター・デスの目的は何か。安らかに亡くなってほしい、という家族側の願いとともに、ドクター・デスが殺人罪に問われる、この犯罪を続ける意味はどこにあるのか。
死は国境も性別も、貧富も関係なく訪れる。後半語られる「安らかな死」に対する攻防に息を呑む。終末医療に関して、喫緊に解決されるべき課題だと思う。
江戸幕府の小石川御薬園で働く御薬園同心シリーズの、第三巻にして完結編、梶よう子『花しぐれ 御薬園同心 水上草介』(集英社)が上梓された。
小石川御薬園の園内には、山本周五郎の小説『赤ひげ診療譚』の舞台、小石川養生所があり、広大な敷地の西側を芥川家、東側を岡田家が管理していた。芥川家の娘で男装の剣士、千歳や、養生所を預かる蘭方医の河島たちも、みな忙しく立ち働いている。
草介は薬学を修めるため、二年後に紀州へ旅立つことになっている。水上家の跡取りとして嫁を持たせたいというのが、母の佐久の切なる願いである。
時の目付、鳥居耀蔵は御薬園と診療所が蘭学の高野長英と誼(よしみ)を通じていると疑い、小人目付の新林鶴之輔に内情を探らせている。折あらば奉行所へ引き立て、吟味しようと手ぐすねを引いていた。
養生所には貧しい者、身分の低い者も病気を治しにやってくる。病もまた、身分に関係なく人々に襲いかかる。流行病の疫病が発生し、診療所は患者を閉じ込めて封鎖する騒ぎとなった。高野長英に知恵を借り、西洋接骨木の花を煎じたもので、鳥居も新林も罹患せずに済んだ。
難産やら更年期障害やら、女性特有の病を江戸時代ではどうやって解決してきたか、というのも興味深い。
さていよいよ紀州に旅立つとき、園内じゅうがやきもきしてきた二人の仲はどうなったのか。ぜひ本書で確認してほしい。