『〈ものまね〉の歴史』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<ものまね>の歴史 石井公成 著
[レビュアー] 下川耿史(風俗史家)
◆笑い芸の原形たどる
テレビタレントのコロッケらの人気からも分かるように、日本でものまねは一つの独立した芸として認知されている。
そのルーツはどこにあるか。本書によると、釈迦(しゃか)が生まれたのは紀元前五世紀頃だが、その誕生祝いでものまねが演じられた。以後、中国や朝鮮、日本などでは仏教をベースとした笑いの芸として、ものまねが発達してきたという。
伝承された法話の中には、ニワトリの鳴き声の上手な盗賊がいて、彼の鳴きまねを本物と間違えた門番が門を開けたため一味が逃走したといった話もあり、修行者が慎むべき戒律の一つとされたが、ものまねはその壁を越える形で次々と新しい笑いの芸を生み出してきた。この傾向は日本ではとくに顕著で、平安時代に始まる猿楽や南北朝時代の狂言も、ものまねの中から芽生えた笑いの芸である。
江戸時代の初期にスタートした歌舞伎は、ものまね芸の頂点の芸だと著者はいう。その頃、<おくに>という若い女性が乱世のアイドルだった<かぶき者>をまねした踊りを創始して大評判となった。元禄時代になると、庶民の間に仏像めぐりが流行したが、歌舞伎の世界はさっそく仁王様や不動様の目を剥(む)いた姿を取り入れて人気を博した。これがいわゆる「見得(みえ)」の原形となったのである。
神仏や生き物を巧みにまねる芸能の今に伝わる興味深い源流と開花が分かる。
(吉川弘文館 ・ 1944円)
<いしい・こうせい> 1950年生まれ。駒沢大教授。著書『聖徳太子』など。
◆もう1冊
釈徹宗著『落語に花咲く仏教』(朝日選書)。宗教と芸能の歴史をたどりながら、落語に展開された仏教の要素を紹介。