ハーバードの学生は10冊しか本を読まない?

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「仕事ができる人」や「生産性が高い人」は、本を大量に読んでいると思うだろうが、実はそんなことはない。サンリオで海外事業を拡大し、DeNA、LINE、ピジョン、トランスコスモスの社外取締役を歴任した鳩山玲人氏は、ハーバード・ビジネススクールに留学し、現在もスタンフォードの客員研究員を務めた印象から、「世界トップのビジネススクールでもほとんど本を読まない」と断言する。読書を結果につなげるためには、どんな読み方をすればいいのか? そこには何か秘密があるのか? 最近『世界のエリートは10冊しか本を読まない』を執筆した鳩山玲人氏に、ハーバードで学び、自らも実践する、ビジネスで本当に使える本の読み方を語ってもらった。

結果を出す人は本のどこに注目しているのか

 私が、ハーバード・ビジネススクール(以下、HBS)に留学したのは、2006年のことです。
 青山学院大学を卒業後、三菱商事に入社し、エイベックスやローソンなどのメディア・コンテンツビジネスに携わったあと、マネジメントやファイナンスに関する知識を身につけるために渡米しました。

 正直に打ち明けると、留学前の私は不安もありました。HBSの勉強は、とても厳しいことで有名だからです。毎年必ず、成績下位、数パーセントが強制的に退学を余儀なくされます。圧倒的な量の勉強をこなしていく2年間に、はたして勝ち残れるか…。私は、危機感から、入学前に、HBSの有名教授たちが書いた本の日本語版をごっそり購入して留学に臨みました。

 しかし結局、これらの本を留学時代に読むことは、ほぼありませんでした。なぜなら、世界のエリートが集まるハーバードでは、皆、本をほとんど読んでいなかったからです。

 一言でいうならば、エリートと呼ばれるビジネスパーソンたちの目的は「本を読むこと」ではなかったからです。
 彼らの目的とは何か。それは、

・ビジネスで桁外れの結果を出すこと
・目の前の課題を解決すること

 ハーバードの学生は、ケース(企業の事例)を読みながら、常にこのような自問自答を行います。

「自分が登場人物の立場だとすれば、どう判断し、実行に移すだろうか」

 アメリカでは、小学校や中学校でも、当事者の立場に立って考える機会に恵まれています。たとえば、日本とアメリカの小・中学校では、国語の指導法が違います。日本の国語教育で求められているのは、文意を正しく理解することです。
 国語のテストでは、

「長文を読ませて、本文を要約させる」
「下線部の『それ』が何を指しているかを答えさせる」

など、文章の意味を問う問題が出されます。

 一方、アメリカの国語教育では、文章の理解や解釈よりも、

「あなたがこの物語の主人公だとしたら、どう考え、どう行動するのか」

をロジカルかつクリエイティブに考えることが問われます。文意を正しく解釈することは、それほど重要ではない。アメリカでは、知識を覚えることよりも、子供が自分の考えを表現することを大切にしているのです。

何でも要約したがる日本人

 日本とアメリカでは、読書感想文の書き方にも違いがあります。

 日本の読書感想文は、ご存じのとおり、「要約と感想」によって構成されています。
 この本のあらすじはこうです、この部分について、私はこう思いました、と書くのが一般的です。
 ところがアメリカの読書感想文は違います。まず要約はなくてもかまいません。
 感想についても、感情がどう動いたかではなく、「この本の内容を踏まえて、自分はどのようなリアクションを取ろうと思ったか」について書かれます。

 日本の国語教育の根源は、正しい理解・解釈にあると前述しました。一方、アメリカの国語教育の根源は、「自分の意見を持つ」ことにあると、私は考えています。アメリカ人は、子供のころから、「自分だったらどうするのか」を考えるトレーニングを積んでいます。本を読むときも、物語の登場人物と自分を重ねながら、「自分ならどうするか」を考えながら読んでいるのです。

 ですから、ビジネススクールのケース(事例)に結論や正解が書かれていなくても、アメリカ人には抵抗がありません。自分の頭で、物語のその先を考えることが習慣化されているからです。

 私自身も、ビジネス書に書かれた事例をケースとして見立て、自分のビジネスに置き換えながら、戦略を構築したことがあります。

 『ビジネスで一番、大切なこと』(北川知子・訳/ダイヤモンド社)の著者、ヤンミ・ムン教授は、マイケル・E・ポーターやクリステンセンと並び、HBSで人気の女性経営学者です。HBSではスターバックスのブランディングのケースで有名で、ユニリーバや楽天、ジェシカ・アルバのオネストカンパニーの取締役も務めています。
 教授が、本書の中で指摘している重要な一説は次の一文に集約されます。

「競争相手に目を向けてばかりいると、結果的に、似たり寄ったりのモノを生み出してしまう」

 ビジネスにおいて競合他社の特徴を研究することがありますが、そのことで自社が備えていない要素にばかり目が行き、自社の弱いところを補おうとする発想に陥ってしまいます。消費者にアンケートを取って競合比較を行うと、他社の長所に追いつきながら、お互いはどんどん似通ってしまう結果になるのです。

 ヤンミ・ムン教授は、どんなブランドも創造的な考え方を取り入れることで理想型のブランドを確立できると説いています。そして、「真の差別化」の手法をいくつか紹介しています。
 この本には、グーグル、IKEA、ジェットブルー(航空会社)、ソニーAIBO、スウォッチ(時計)、シルク・ドゥ・ソレイユ、アップル、ベネトン、ハーレーダビッドソンなどの事例が掲載されています。

 私はこれらの事例を「ハローキティのブランドを構築するにはどうすればいいか」を考えるヒントにしながら、読みました。実際、私がサンリオ時代に、ルイ・ヴィトンを抱えるLVMHグループのセフォラやスワロフスキーなどとコラボレーションしてハローキティの商品をつくったのも、「ライセンス供与を通じたコラボレーションこそ、ブランド戦略に有効である」というこの本の教えを、自らのビジネスに置き換え、実践したからです。

読書量が増えない人の悪い思い込み

 私は、ビジネス書や実用書を「完読する必要はない」と考えています。
 なぜなら、ビジネス書を読むのは、課題を解決するためだからです。

「1冊、最後まで読み切ることができなかった」

という罪悪感を持ってしまう人もいるかもしれませんが、むしろ、本は最後まで読まなくていいと私は思います。本は、課題を解決するためのヒントや答えが書いてある箇所だけを読めばいいのであって、それ以外のページは読まなくてもかまいません。

「1冊の本を1行たりとも読み飛ばさずに、絞り取るようにして読まないといけない」

と思うから、読むのが面倒になるのであって、

「得たいことさえ得られたら、それでよし」

と割り切れば、読書量は一気に増えるはずです。

 たしかに、フィクションなど、ストーリー性の高い作品は最初から読んでいかないと話の筋が追えないため、読み飛ばすのは難しいかもしれません。それでも私は、読んでいる最中に、「おもしろくない」と思ったら、最後まで読むことはありません。時間が惜しいからです。

 仮に、買った本が5章構成になっていたとしても、課題に対する答えや解決策が第1章に掲載されていたとしたら、第2章以降は読まなくてもいいと思います。私は、「課題解決に関係がないページ」「内容的に興味が持てないページ」は読みませんし、最初に目次を見て、興味を持ったところから読みはじめます。おもしろくないページに力を注ぎすぎるのは、エネルギーの無駄使いです。

 たとえば、いちばん知りたい内容が第5章に掲載されているとします。

 それなのに、第1章から順番に読み進めようとすると、途中で飽きてしまって、肝心の第5章にたどりつかないこともあるでしょう。ですから、第5章から読むことで、本自体の要旨をつかみ、そこから前に戻る読み方も、ときには必要になるのだと思っています。

SBクリエイティブ
2017年8月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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