作家の瀬戸内寂聴さん(95)の初めての句集『ひとり』(深夜叢書社・2000円+税)が刊行された。
〈御山(おんやま)のひとりに深き花の闇〉
〈落飾ののち茫茫と雛飾る〉
寂聴さんはここ数年、入退院を繰り返しており、小説執筆も休みがちで鬱状態になる中、句集刊行を思い立った。後書きに「こうして私は苦しいときや辛(つら)い時、自分を慰める愉(たの)しいことを見いだしては、自分を慰め生き抜いてきた」と記している。
深夜叢書社を主宰する俳人、斎藤慎爾さん(78)によると、瀬戸内さんはかねて、吉屋信子、芥川龍之介のように、葬儀に来てくれた人たちに記念の句集を渡したいと話していたそうだ。自費出版で1000部刊行したが、1カ月あまりで増刷となった。
二十数年前から作ってきた85句のほか、俳句にまつわる武原はん、江国滋氏らの思い出を記すエッセーが収められている。
〈仮の世の修羅書きすすむ霜夜かな〉
作家の自画像の厳しさに胸をつかれる。
〈子を捨てしわれに母の日喪のごとく〉
〈もろ乳にほたる放たれし夜も杳(くら)く〉
幼い娘を残して家を出て、奔放かつ波瀾(はらん)万丈な人生を歩んだ瀬戸内さん。艶めかしさを感じる句も多い。
〈はるさめかなみだかあてなにじみをり〉
京都・嵯峨野に結んだ寂庵(じゃくあん)に届いた手紙の文字のにじみを見て、送り手の身の上を思いやるこまやかな情が平仮名にこもる。
斎藤さんによる評伝『続・寂聴伝』(白水社・3600円+税)も刊行された。源氏物語全訳や樋口一葉の評伝、サガン、ボーボワールとの交流など瀬戸内さんの作家活動を追いつつ、斎藤さんが自由に思考を飛躍させた。「たけくらべ」論争の考察など、「おもしろさを一番に考えた」(斎藤さん)読み物になっている。(永井優子)
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