【写真集】『APARTMENT -木造モルタルアパート 夢のゆくえ-』

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【写真集】『APARTMENT -木造モルタルアパート 夢のゆくえ-』

[レビュアー] 藤井克郎

 ■昭和のにおいがむせ返る

 今も人が住んでいるのかいないのか、昭和の高度経済成長期に東京で建てられた木造モルタルアパートの写真がおよそ1500点、384ページにわたってぎっしり詰め込まれている。すべてモノクロのカットには一切、人が映っておらず、もはや廃虚のような風情も漂う。

 著者は昭和26年、福岡生まれのデザイナーで、46年に上京したときは、練馬にあるアパートとも呼べないような六畳一間の部屋で暮らしていた。約20年前、今にも朽ち果てそうな古いアパートを目にして、当時の懐かしい思い出がよみがえり、以来、デジカメを手に散歩に出かけては、木造アパートの写真を撮り続けてきた。

 当初は700ページを超す膨大な量だったが、写真集を出版するに当たって、大小さまざまなサイズを配するなどレイアウトに工夫を凝らし、昭和のにおいがむせ返るような一冊に仕上げた。

 編集を手がけたワイズ出版の岡田博社長は「こういうところに住んで一生懸命に働いていた人たちがいた。昭和の多くが消えていく中、まだほんのちょっと静かに生き残っている。まさに団塊の世代と一緒で、歴史の鎮魂歌と感じられないことはありません」と話している。(宮岡蓮二著/ワイズ出版・ 2750円+税)

 藤井克郎

産経新聞
2017年9月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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