インプットが変われば、アウトプットは変わる
入り口の問いの重要性について例をあげて考えてみましょう。
授業では、常にいくつかのチームにわかれて1つのテーマに取り組みます。
あるとき、授業で「京王井の頭線の新しいサービスを考えてプレゼンしよう」というテーマに取り組んだことがありました。京王井の頭線とは東京の西側、渋谷駅と吉祥寺駅とを結ぶ全長12.7キロの私鉄です。東大の教養学部がある「駒場東大前駅」も、井の頭線の駅の1つです。
あるチーム(仮にAチーム)は、「井の頭線の車両の中で使いにくいところを探してみたら、何か発見があるんじゃないか?」という問いを設定しました。そして、メンバーで井の頭線に乗車し、不便なところを探すという方法を採用。調査をもとに、井の頭線の使い勝手をよくするアイデアを提案しました。
あるチーム(仮にBチーム)は、すぐに井の頭線を調査せずに、まず立ち止まって考えました。
「そもそも新しい鉄道のサービスを考える時に、その鉄道に乗って考えていいのだろうか」という問いからスタートしたのです。その問いは「井の頭線は、鉄道以外で何か似ているものはないのだろうか」という新たな問いに発展しました。
そんな問いを抱えながら、鉄道路線図を眺めているうちに、あることを発見しました。渋谷と吉祥寺という若者に人気の2つの街を結んでいるのにもかかわらず他の路線などに見られる相互乗り入れなどもなく、渋谷も吉祥寺も完全に終点となっていることです。その様子を「まるで渋谷が表玄関で、吉祥寺が裏玄関のようだった」と彼らはいいました。
「表玄関と裏玄関があってにぎわっているところってどこだろう?」と、彼らはさらに考えを発展させていき、「それはショッピングモールじゃないか」という結論に至りました。
そして、鉄道の調査ではなく、ショッピングモールの徹底観察をおこなって「井の頭線を1つの”ショッピングモール”として楽しめたら面白い」という企画を出してきたのです。
・渋谷にも、吉祥寺にも、途中駅の下北沢にも自由に昇降できる1日パス
・駅界隈のお店で買い物や食事ができる共通スタンプがもらえる
・園内マップを配布する
といったアイデアです。
「ショッピングモール」の中では、井の頭線の車両は「巨大ベンチ」に見たてました。
ちょっと座って休み、立ち上がり、「さて、次のお店に行こうかな」というときに使うベンチ……たまたま動いているだけで、休憩場所という位置付けなのです。
AチームとBチーム。どちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけではありません。けれども、面白いアウトプットだなあと感じたのは、Bチームの方です。
Bチームが面白いアウトプットを導いた最大の勝因は、「面白い問いをたてて、面白いインプットをした」ことに尽きます。彼らは、「電車の新サービスを考えよう」というテーマが出たときに、敢えて「電車に乗らなかった」のです。従来とは視点を変えたことが、本人たちも驚くようなアウトプットにつながりました。
「何を調べるか?」「どう調べるか?」をクリエイティブに。
インプットの視点が面白ければ、アウトプットも面白くなる実例だと思います。
世界ナンバーワン・コーチの質問力
問いの大切さについて、もう少し掘り下げてみましょう。
世界ナンバーワンのコーチと呼ばれる、アンソニー・ロビンスという人がいます。
ビル・クリントン元大統領を始め、世界的投資家のジョージ・ソロス、俳優のアンソニー・ホプキンス、 テニス・プレーヤーのアンドレ・アガシなど、錚々たる人物が彼のコーチングを受けています。アンソニー・ロビンスは、こういいます。
「私たちが得る答えは、私たちが何を質問するかによって決まります。つまり、どれだけ素晴らしい答えを得る質問をするかどうかなのです」
この言葉は、問い(インプット)と、答え(アウトプット)との関係性を端的に表しています。また、テニスコーチの草わけ的存在であるティモシー・ガルウェイは、「球をよく見ろ」と教える代わりに、こんな問いを投げかけました。
「ネットを越える瞬間、ボールの回転はどうなっている?」
この質問のおかげで、選手はまずボールを見ることのみに集中できるようになりました。さらに、実際に回転がどうなっているのか、自発的に練習に取り組むようになりました。素晴らしいたった1つの「問い」が、選手の素晴らしいアウトプットを引き出した典型例といえるでしょう。
古代ギリシャの哲学者ソクラテスが、真理に目覚めさせるために用いた対話法のことを「哲学的問答法」と呼びます。日本でも「禅問答」はまさに「問い」の連続によって成り立っていますよね。世界の発明王エジソンは、子供の頃から「なぜ? どうして?」を繰り返していました。
素晴らしい「問い」には、自分の枠組みや固定観念を打破する力があります。「問い」を重要視する──これは授業の特長の1つだといえるでしょう。
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