『架空論文投稿計画』
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するめのような本をめざしました
[レビュアー] 松崎有理(作家)
ここ数年、学術論文捏造など研究不正の話題が目立ちました。研究の世界にこれほど一般のひとから関心がよせられるのはめずらしく、でも理由が理由なだけに、かつてその世界に片足をつっこんでいた者としては複雑な気分です。ノーベル賞やイグノーベル賞の受賞ニュースであればすなおに喜べるのですけれど。
本書の主人公は研究者心理を研究しています。研究不正の実情を探るため、わざと虚偽の論文を書いて学術雑誌に投稿してみる実験を計画しました。本書ではその顛末を小説として縦組で表現しつつ、主人公が投稿した嘘論文十一本ぜんぶを横組で挿入しています。
論文部分はいかにもほんものの論文らしく細部までリアルにつくりこみ、かつ笑えるエンタメとなるよう工夫しました。たとえば一本めの架空論文のタイトルは「島弧西部古都市において特異的にみられる奇習“繰り返し『ぶぶ漬けいかがどす』ゲーム”は戦略的行動か?――解析およびその意義の検証」です。いっぽう論文投稿実験の進行を語る小説部分はスリリングなサスペンス。主人公の行く手をはばむ謎の組織・論文警察やその黒幕、論文の代筆を高額で請け負う業者、敵か味方かわからない黒衣の超美人ハーフ研究者など、ふつうに研究しているだけならまず遭遇しないであろう濃ゆいキャラたちがこれでもかと登場します。
読者のみなさまには楽しみながら研究業界の雰囲気にひたっていただけるよう、業界専門用語にくわしい脚註をつけました。この註も架空論文も筆者が全力を傾注してつくっていますので、言及された書籍をあたったり、論文内にほどこされたしかけを探したりすれば、するめを噛むように長く味わえることでしょう。本書のコスパはひじょうによいと自負しております。休暇や長期出張のお供に、また入院したお友だちへのプレゼントに、ぜひどうぞ。