前身となる2つの賞から有為転変、中央公論文芸賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

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前身となる2つの賞から有為転変、中央公論文芸賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 中央公論新社が主催している「中央公論文芸賞」は歴史が浅い文学賞です。第一線で活躍する作家の優れたエンターテインメント作品を表彰する同賞が設立されたのは、創業一二○周年にあたる二○○六年。

 若~い。とはいうものの、前身となる賞があって、それは女性をテーマとした小説やエッセイなどの文芸作品に贈られた「婦人公論文芸賞」(二○○一年~)。ところが、この賞の前身もあるのです。女流文学者会主催の賞を引継ぐかたちで創設された「女流文学賞」(一九六二年~二○○○年)。

 まさに有為転変の文学賞。リニューアルを繰り返すたびに女性色を薄めていっているのが特徴なのですが、最終進化形の中央公論文芸賞においても男女の受賞比は五対九で、今のところ女性作家が強い賞といえます。

 忘れがたい授賞式は、村山由佳の『ダブル・ファンタジー』が受賞した第四回。肌を露わにするエロティックなドレス姿で、私生活を赤裸々に語る受賞挨拶に場内大盛り上がり。ベストセラー作家はサービス精神旺盛だなーと感服つかまつり候の巻だったのでした。

 閑話休題。これまでの受賞作は、浅田次郎お腹召しませ』(第一回)、ねじめ正一荒地の恋』(三)、井上荒野そこへ行くな』(六)、中島京子長いお別れ』(十)など。さすがに有為転変の三賞を全部受賞した作家はいませんが、角田光代が『空中庭園』で第三回婦人公論文芸賞を、『八日目の蝉』で第二回中央公論文芸賞をとっているのが、お見事です。選考委員は第一回から五回までは故渡辺淳一、林真理子、鹿島茂が、現在は林、鹿島、浅田次郎、村山由佳が務めています。浅田と林は直木賞の選考委員。どうにかしましょうよ、選考委員の偏りを。

 最新となる第十二回の受賞作は森絵都の『みかづき』。戦後の教育史を塾の観点からたどりつつ、理想の教育の姿を求めて奮闘する家族の物語になっています。教育も、その産物である人間も、決して完璧に満ちることはないけれど、〈欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積む〉、その信頼を礎にした素晴らしい小説。超オススメ受賞作です。

新潮社 週刊新潮
2017年10月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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