今こそ!連載開始50周年の名作を読め!『ゴルゴ13』|中野晴行の「まんがのソムリエ」第65回

中野晴行の「まんがのソムリエ」

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186巻の大作を、さまざまな視点で読む
『ゴルゴ13』さいとう・たかを

 天才的な狙撃者(スナイパー)が世界の政治・経済・紛争のバックで暗躍する、さいとう・たかをのアクション劇画『ゴルゴ13』の連載が『ビッグコミック』誌上で始まったのは1968年11月発売の69年1月号。来年11月には連載50年の節目を迎える。
 これまでの49年間で休載はゼロ。一人の主人公がひとつの雑誌で休まずに活躍した年数ということに関しては、この作品の右に出るものはないはず。
 これを記念して、大阪市港区にある「大阪文化館・天保山(旧サントリーミュージアム)」では、「連載開始50周年記念特別展 さいとう・たかを ゴルゴ13 用件を聞こうか……」が開催中だ(11月27日まで)。会場では、これまでの全エピソードから選りすぐった原画39枚で連載の歴史をたどる「軌跡」、ゴルゴが使う銃のモデルガン11丁が並ぶ「狙撃」、ゴルゴと出会った女たち100人が壁いっぱいに並ぶ「女性」、さいとう・プロダクションの制作現場を再現した「制作」など5つの展示コーナで作品世界を余すところなく紹介。「狙撃」コーナーでは愛用のライフル「アーマライトM16」のモデルガンを手にすることもできる。また、ゴルゴの等身大フィギュアとの記念撮影や、会場限定オリジナル・グッズの販売など、盛り沢山な内容が用意されている。

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 さて、単行本にして186巻(9月末現在)の『ゴルゴ13』の魅力とは何か。
 もちろん、作品のバックボーンになっている国際情勢や経済問題を知ることができるということが一番だろう。シナリオの制作にはシナリオライターの他に多くの専門家が関わっているので、劇画だからとあなどることはできない。しかも、50年間の動きをリアルに読むことができるのだ。
 連載開始当時はまだアメリカ合衆国とソビエト連邦の冷戦が続き、ヨーロッパは東と西にわかれていた。しかし、東西分断の象徴だったベルリンの壁が1989年に崩壊し、まもなくソ連も解体されてしまった。国際経済も変化し、いまや中国やインドなどの台頭がめざましい。
 こうしたダイナミックな動きを読むことができる作品は小説にもない。

 ゴルゴ13というキャラクターそのものの変遷を読み解くのも面白いだろう。
 さいとう・たかをによれば当初、この作品は10話の短期連載の予定で、最終話を含む10話分のストーリーもできあがっていたのだという。ゴルゴ13のモデルは、映画スターの高倉健。年齢設定は当時30歳だったさいとうの年齢よりも少し上。デューク東郷という名前は、中学時代の恩師の苗字を拝借したものだという。
 性格付けなど細かな設定は連載が続くうちに少しづつ加わっていたものがあり、寡黙とされているゴルゴもはじめのうちは結構よく喋っている。
 第1話の「ビッグ・セイフ作戦」では「フフフ……まだ戦時中のつもりでいるらしい……」と含み笑いを漏らすし、第2話「デロスの咆哮」でも「フフフ……ニセ者を再会させて人間性か……」とニヒルに笑っている。第3話の「バラと狼の倒錯」では「ところでよけいな事かもしれないが」と依頼人に意見を言ったりもする(いずれも1巻)。
 熱心なファンの中には「まだ未熟だったから」と説明する人もいるが、さいとう自身は「連載が長くなって、あまりしゃべるとボロが出るから」と言っている。

 ゴルゴのルーツを探る謎解き要素もある。第61話の「日本人・東研作」(14巻)に出てきた工作員の東研作、第100話「芹沢家殺人事件」(27巻)の一家惨殺事件で生き残った少年・芹沢五郎。第127話「おろしや間諜伝説」(36巻)の白系ロシア人の父と日本人の母を持つ男……。ほかにも、清朝の血を引く五島貴之(41巻「蒼狼漂う果て」)、東郷平八郎の末裔を父に、ジンギス汗の末裔を母に持つ東郷狂介(51巻「毛沢東の遺言」)など、決定的なものはないが、どれも本物っぽい。年齢の問題というハードルさえ目を瞑れば、もしかして、とさらなる深読みもできる。
 もっとも、うっかり真相を掴むと、ゴルゴのアーマライトにロックオンされてしまうかもしれないので注意が必要だが……。

 最後に、全話の中からソムリエおすすめの1話を紹介しよう。それは第81話「海へ向かうエバ」(21巻収録)だ。ゴルゴと、過去に一夜を共にした女暗殺者エバ・グルーグマンとの再会を描いたエピソードで、さいとう・たかをがシナリオも担当している。
「男女の情愛を描くセンチメンタルな作品が好き」というさいとうらしさの滲み出た佳作だ。全巻が無理でも、この巻だけはぜひ読んで、ゴルゴの魅力を再認識していただきたいのだ。

※記事中の巻数はすべてeBookJapanにて配信中の電子書籍版に対応したものです。
※関東地区での展覧会は2018年9月22日~11月30日に川崎市民ミュージアムで開催予定。
展覧会公式サイトはこちら(https://www.golgo-13.com/

中野晴行(なかの・はるゆき)

1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。

eBook Japan
2017年10月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

イーブックイニシアティブジャパン

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