『東京時間旅行』
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【聞きたい。】鹿島茂さん『東京時間旅行』 パリを比較軸に卓抜な東京論
[文] 磨井慎吾
「パリは昔の建物が残っているので今と対比させやすいけど、東京は全く残っていない。短期間にこれだけ変わってしまう街はそうないだろうね。何しろ25年前の話が『時間旅行』になっちゃうんだから」
パリや古書をめぐる数々の著作で知られる仏文学者の鹿島茂さん。平成の初めから四半世紀にわたり書きためていた東京に関するエッセーを集め、一冊に編んだ。
昭和39年の東京五輪について、実は最初から首都を大幅に作り替える目的で招致したのではという論考。純喫茶はなぜ「純」なのかという疑問を解き明かす、日本における「カフェ」の複雑微妙な変遷史。神楽坂にフランス人が密集するに至った歴史的経緯…。フランスに関する該博な知識を背景に、個人的な思い出をふんだんに交えつつ、日本近代化に際して欧米のモデルがどう受容され、いかに変容していったかを具体例に則してたどっていく。
「日本には宗主国がない。それにはいい面もあるし、悪い面もある。統一様式がないからね。いろんな国に留学した人が近代日本のいろんな部分を作ったわけだけど、いいとこ取りとはいかない部分もあった」
明治以降、さまざまな輸入意匠をつぎはぎしつつ、常に変わり続けている東京。2度目の五輪を前にした現在もまた、大きな変化の中にいる。「この25年の変化を見ると、東京が変わるべき方向性がはっきりしてきたと思う。郊外へと横に広がっていたのが止まり、容積率緩和で中心が上に伸びていく。都心5区にお金と権力が集中していくんだろうね」
東京にもパリにも深い思い入れがある鹿島さん。でも先生、パリと東京、強いてどちらか選ぶとしたら?
「やはりパリだねえ。実は大学を定年になったら、少し向こうに住んでみようかと思っているんだよ」
愛するパリを比較軸とした、卓抜な東京論だ。(作品社・1800円+税)
磨井慎吾
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【プロフィル】鹿島茂
かしま・しげる 昭和24年、横浜市生まれ。東大大学院人文科学研究科博士課程修了。明治大国際日本学部教授。『パリ時間旅行』など著書多数。