手塚のお気に入りは「破壊神」!?『魔神ガロン』|中野晴行の「まんがのソムリエ」第68回

中野晴行の「まんがのソムリエ」

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手塚治虫生誕90周年記念・第3弾
宇宙人から試される地球人類の「良心」
『魔神ガロン』手塚 治虫

 手塚治虫生誕90周年特別版の第3回は、秋田書店の月刊誌『冒険王』で1959年7月号から62年7月号まで連載されたSF長編『魔神ガロン』を取り上げよう。
 この作品の主役、宇宙から送られてきたロボット(合成人間)・ガロンは手塚治虫にとっては大のお気に入りキャラクターだ。その証拠に、『鉄腕アトム』の「アトム対ガロンの巻」では、宇宙から飛来した謎の環境改造ロボットとして、また『マグマ大使』では地球征服を狙う宇宙人・ゴアがマグマ大使を倒すために送り込んだブラック・ガロンとして登場。さらに、『白いパイロット』には、ギャングの親分としても客演するのだ。
 連載開始時の手塚治虫はまだ30歳。10月に悦子夫人との結婚を控えて、公私ともに充実した時期だった。『鉄腕アトム』の実写ドラマがフジテレビの開局記念番組としてスタートしたのもこの年。連載では9月から『週刊少年サンデー』誌上で代表作のひとつである『0マン』がスタート。また、短編でも、劇画にチャレンジした『刹那』や『落盤』『花とあらくれ』を貸本短編誌『X』に発表するなど大きく作品の幅を広げていた。

 さて、物語は東京の後楽園球場のナイターからはじまる。東京ドームが誕生する前に読売ジャイアンツのフランチャイズだった球場だ。意地の悪い人は「ここに描かれた球場の絵を見るだけでも手塚がスポーツを苦手としていたことが分かる」と言うらしいが、それはおいといて。
 試合中のグラウンドに空から突然、正体不明の火の玉が落ちてくる。東大の俵教授と助手の敷島が火の玉の残骸を研究室に運び込んで調べると、火の玉の正体は地球以外の天体でつくられた合成人間の組立パーツだった。
 そのころ、東北のある山奥の村にも小さな火の玉が落下した。村の小学校の先生・ヒゲオヤジが現場に駆けつけると、そこには生まれたばかりの赤ん坊が泣いていた。ヒゲオヤジは赤ん坊を家に連れて帰り、自分の息子・ケン一の双子の弟として育てることにした。
 10年の歳月が流れた。俵教授は敷島も近づけずただひとりで合成人間の研究に没頭していた。しかし、合成人間は動く兆しも見せていない。ある夜、クロレラを鼻から流し込んで電流を流すという実験をしていたところ、合成人間は「ガローン」と叫びながら突然起き上がり、研究室の中で暴れ始めた。教授は銃で急所を狙って動きを止めたが、倒れてきた合成人間の下敷きになり、敷島が駆けつけた時にはすでに息絶えていた。葬儀のあとで敷島が博士の遺品のテープを見つけると、そこには驚くべきことが録音されていた。
 合成人間は宇宙人が地球人を試すために送った組み立て人間・ガロン。人類がガロンを正しく使うことができない場合、宇宙人は地球を滅ぼすと言うのだ。宇宙人はさらに、ガロンはピックによって正しく動く、というメッセージを届けてきたが、教授にはピックがどんなものかで、どこにあるか、見当もつかなかった。
 テープを聴いた敷島は、恩師の遺志を継ぐため、同じ時間に火の玉が落ちた東北の村を目指す。あの夜、ヒゲオヤジが助けた赤ん坊こそがピックだったのだ。
 そのころ、ガロンを狙って悪人タランテラが動き出していた。

 宇宙人が地球人を見張っている、という設定は『W3(ワンダースリー)』や『鳥人大系』などにも見られる手塚お得意のものだが、破壊者であるロボットとロボットを正しく導く「良心」としてのピックというキャラクターを作り出したところがミソ。善と悪は不可分だという手塚マンガの重要なテーマが、本作では不気味なガロンと可憐なピックという「絵」としてはっきり描かれているわけだ。

 ただ、当時小学校1年生だった私にそういう深いテーマがわかるはずもなく、惹かれていたのは、ガロンの造形のカッコよさと、地球を救うためにピックの力を借りてガロンを正しいことに使おうとする敷島博士やケン一たちと、自分たちの悪事のために利用しようとあの手この手でガロンを奪い取ろうとする悪人たちの戦いのほうだった。
 犯罪組織のボス・タランテラ、海底要塞を根城にする海龍王、女ギャングの白虎のおコン、X大佐とゴースト博士……。次から次へと個性的な悪人が登場しては消えてゆく、連続活劇方式の攻防戦が子どもには面白かったのだ。
 最後にはタイムマシンで太平洋戦争中の日本に飛ばされたガロンとピックを日本軍とアメリカ軍が奪い合うという展開に。

 手塚によれば、締め切りに追われ、後半ではついに代筆に頼らざるを得なくなった、というが、それでも編集部が連載を続けたのは読者の反応が全てだったと思われる。今読み返すと、ここは手塚ではないな、とはっきりわかる部分もあるが、それはそれでおもしろい。作者がノッテいる時の作品はそういうものなのだ。

中野晴行(なかの・はるゆき)

1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。

eBook Japan
2017年11月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

イーブックイニシアティブジャパン

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