「書下ろし時代小説」今年のベスト3!――縄田一男

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  • 火喰鳥 羽州ぼろ鳶組

書下ろし時代小説 今年のベスト3!

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 今年の書下ろし文庫時代小説のベスト3は、近代史の分野に材を取り、義和団事件を扱った松岡圭祐の大作『黄砂の籠城(上下)』(講談社文庫)と、この欄でも紹介した長谷川卓もののふ戦記 小者・半助の戦い』(ハルキ文庫)、そして新人・今村翔吾の『火喰鳥(ひくいどり) 羽州(うしゅう)ぼろ鳶組(とびぐみ)』(祥伝社文庫)であろう。

 特に〈羽州ぼろ鳶組〉シリーズは、その後も『夜哭烏(よなきがらす)』が刊行され、今回、第三弾の『九紋龍(くもんりゅう)』の登場となった。

 このシリーズ、面白いというだけでなく、久々に鳶を扱った小説としても注目される。

 鳶が主人公のいわゆる〈纏(まとい)もの〉は、昭和三〇年代に村上元三が講談の『野狐三次』に材を得た『野狐笛』あたりを最後に、段々と古臭いテーマとして敬遠され、近年ではまったく姿を消してしまった感がある。

 それを見事なまでに、刷新、復活させ、極上のエンターテインメント作品として登場させたのが、この〈羽州ぼろ鳶組〉シリーズなのである。

 今回は、火付けをし、その隙を見て押し込みを働き、一家皆殺しをする兇賊“千羽一家”の江戸入りにはじまる。ところが、〈ぼろ鳶組〉を抱えている新庄藩の家老が病に倒れ、乗り込んできた御連枝様・戸沢正親は、この非常時にもかかわらず、火消の削減を宣告。そして火事場で〈ぼろ鳶組〉の頭・源吾に異様なまでの敵対心をぶつけてくる「に組」の頭“九紋龍”こと辰一の真意とは――。

 物語は、快調なテンポの中、山本周五郎ばりの箴言をちりばめつつ進められていくが、その過程で、辰一の九紋龍の刺青に秘められた哀しい過去や、新庄藩の貧しさゆえの戸沢正親の苦衷が明らかになってゆく。

 その中で、火事の中心から二重円を描いて、火付けの手口を割り出す手法等、この作品にはいい加減な箇所は一つとしてない。そして男の心底が見え切ったところで第五章「江戸の華」のほぼ丸ごとを使っての火消と千羽一家との対決を二つながらに描くくだりなど、まさに大興奮の一巻といえよう。

新潮社 週刊新潮
2017年12月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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