2017年を書評で振り返る トランプ就任、東芝崩壊、プレ金、森加計問題、MeToo運動まで[前編]

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 2017年も残りわずかとなりました。今年も様々な時事問題に関連する本が出版され、開設2周年を迎えたBook Bangにも多くの書評が集まっています。今年の出来事に思いを馳せながら年末年始に読む一冊を探してみてください。まずは1月から5月までの出来事を振り返ります。

■1月19日 第156回芥川賞に「しんせかい」直木賞に『蜜蜂と遠雷』

 日本文学振興会は第156回芥川龍之介賞に山下澄人さんの「しんせかい」(新潮社)を選出しました。直木三十五賞には恩田陸さん『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)を選出しました。山下さんは倉本聰さんが主催する富良野塾の2期生。「しんせかい」は富良野塾を思わせる演劇塾が舞台となった私小説を思わせる青春小説となっています。『蜜蜂と遠雷』はピアノコンクールを舞台に若き天才たちが競い合う群像小説。4月には第14回本屋大賞も受賞し、2017年を代表とするベストセラー小説となりました。

〈『しんせかい』レビュー〉
「不定の視点からの眺め」レビュアー:青山七恵(作家)

(略)でもその掴みどころのなさこそが、確かさや本当らしさよりもさらに生々しく、今ここにない何か、見えていない何かを読む者に強く想起させるのだ。
https://www.bookbang.jp/review/article/526191

〈『蜜蜂と遠雷』レビュー〉
「ピアノコンクールで鎬を削る天才たち…恩田陸が描く音楽小説」レビュアー:杉江松恋(書評家)

(略)コンクールを舞台としているが、物語の関心は単純な勝ち負けだけにはない。高みを目指して鎬(しのぎ)を削る間に、演奏者たちもまた成長していくのだ。
https://www.bookbang.jp/review/article/519375

■1月20日 ドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任

「米国第一主義」を掲げるドナルド・トランプ氏が米国第45代大統領に就任しました。過激な発言で支持を集め、就任早々環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を決め、イスラム教徒の入国を禁止する大統領令を発しました。その後も、北朝鮮との脅しの応酬やエルサレムをイスラエルの首都と承認するなど、世界に混乱と不安を招いています。国内でも大統領選にまつわるロシアの関与が発覚、閣僚の辞任が相次ぐなど騒動の種は尽きません。日本でもトランプ大統領が生まれた背景や就任後の世界を見通す書籍が何冊も出版されました。

〈『超一極集中社会アメリカの暴走』レビュー〉
「たった0.1%の超富裕層が富を独占する国の現実」レビュアー:池上彰(ジャーナリスト)

(略)こんなアメリカに未来はあるのか。トランプ大統領はアメリカの製造業の復活を約束しますが、いまのアメリカの製造業では、労働力としての人間が必要とされなくなっているのです。
https://www.bookbang.jp/review/article/528506

〈『ルポ トランプ王国』レビュー〉
「『声なき声』を聴く『ドブ板取材』」レビュアー:平山周吉(雑文家)

朝日新聞の記者が岩波新書から出したトランプ本である。リベラル色燦然、読む前にお腹一杯になりそうな、豪華組み合わせだ。その先入観は、みごとに覆される。
https://www.bookbang.jp/review/article/530097

■2月14日 東芝、原子力事業で巨額損失発覚

 東芝は米国などの原子力事業で巨額の損失を被り、2016年4~12月期の連結決算が4999億円の赤字になったことを発表しました。その後東芝は債務超過を解消するため虎の子の半導体部門の売却を決め、2015年に不正会計の発覚からはじまった転落劇に一応の収束をみました。8月1日に東証2部へと格下げになった東芝は、12月に東証1部に再指定されたシャープのようにスピード復活は果たせるのでしょうか? 日本の大手電機メーカーを分析した一冊と東芝崩壊を招いた原子力ビジネスの裏を追った一冊の書評です。

〈『東芝解体 電機メーカーが消える日』レビュー〉
「東芝解体、大手電機8社の危機を徹底分析。沈没組と復活組の意外な評価とは?」レビュアー:東京ピエロ

2年前に世間に驚きを与えた粉飾事件で、東芝の名声は一度地に落ちた。そして、信頼回復もままならないうちに会社を揺るがす巨額損失の発覚。ついに追い詰められた東芝。名門東芝が解体に向かうのは、…
https://www.bookbang.jp/review/article/534144

〈『東芝 大裏面史』レビュー〉
「巨大企業を崩壊させた原発ビジネスの裏側」レビュアー:成毛眞(書評サイト〈HONZ〉代表)

(略)原発ビジネスの闇に切り込むだけではない。「核オプション」と呼ばれる、日本が将来核武装するための知られざる核物質保有の政治メカニズムまで、淡々と筆をすすめるその姿は鬼気迫るものがある。
https://www.bookbang.jp/review/article/533345

■2月24日 『騎士団長殺し』発売

 村上春樹さんの長編小説『騎士団長殺し』が発売されました。上下巻2000枚の大作で、発売前から謎めいたタイトルが大きな話題となりました。12月1日に発表されたトーハンの年間ベストセラーランキングでは7位にランクインしました。橋爪大三郎さん、片山杜秀さん、三浦瑠麗さん、柳川範之さんによる書評です。

〈『騎士団長殺し』レビュー〉
「橋爪大三郎は『騎士団長殺し』を読んで村上春樹による最良の村上春樹論と断言する」レビュアー:橋爪大三郎(社会学者)

 村上春樹の新作『騎団長殺し』が話題だ。読みどころはどこか。
 今回の主人公は画家。作家に近い。村上春樹が手の内を明かすかのような作品だ。…
https://www.bookbang.jp/review/article/533013

「大きな胸を本当に愛せるようになるために」レビュアー:片山杜秀(評論家・思想史家)
 イデアが顕(あらわ)れるとは? プラトンのイデア、つまり神的で崇高な観念がかたちを成すのか。それともマックス・ウェーバーがイデアのタイプというときのイデアか。具体が理念化され典型と化す。僧侶とか市民とかの抽象が顕れる。…
https://www.bookbang.jp/review/article/528625

「自分探しと他者への愛 」レビュアー:三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)/柳川範之(経済学者・東京大学教授)
(略)村上小説は、自分が共感できないマイホーム的家族観やナショナリズムといった、お決まりの大きな「物語」に従って生きることを否定している。だがそれは、先進国の個人主義的な都会人が、もはや語ろうと思っても語るべき「物語」を持ち合わせないということでもある。
https://www.bookbang.jp/review/article/528427

■2月24日「プレミアムフライデー」初実施

 月末金曜日に午後3時に退社し、消費を促す取り組み「プレミアムフライデー」がスタートしました。経済産業省の主導で鳴り物入りで始まった施策ですが、現実問題として月末は忙しく退社できないと戸惑う声もあがっています。印南敦史さんが2冊のビジネス書のレビューで「プレ金」の経済効果や効率の良い働き方について言及しています。

〈『いまさら聞けない! 「経済」のギモン、ぶっちゃけてもいいですか?』レビュー〉
「プレミアムフライデーに効果はある? 経済数量学者が明かす「経済」の真実」レビュアー:印南敦史(作家、書評家)

(略)「遊ぶ人は遊ぶし、遊ばない人は遊ばない」という考え方は、たしかにそのとおりかもしれません。しかし全員が遊ばなくとも、遊ぶタイプの人がお金を使えば、多少は景気がよくなるのではないでしょうか? ところが、この疑問に対しても著者は「ならない」と断言しています。…
https://www.bookbang.jp/review/article/537656

〈『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』レビュー〉
「『残業だらけチーム』と『残業しないチーム』はどこが違う? チームとして短時間で結果を出す方法」レビュアー:印南敦史(作家、書評家)

(略)しかし著者は「決断力」とは、「正しい判断を速くできる能力」だと考えているのだそうです。行動スピードだけを上げたとしても、それ自体が間違っていた場合、やりなおしが生じたり、損失が発生する可能性が出てきます。…
https://www.bookbang.jp/review/article/540384

■3月23日  学校法人「森友学園」籠池泰典理事長の衆参証人喚問

 2月に発覚した、大阪府豊中市の国有地が学校法人森友学園に売却され、売却額が非公表だった問題はその後国会を揺るがす大きな疑惑へと発展。森友学園の理事長籠池泰典氏が衆参両院の予算委員会に喚問され、異例の契約に至った経緯や大幅な値引きの根拠、政治家の関与などについて答えました。この問題はその後発覚した学校法人「加計学園」の問題とあわせ、内閣支持率低下の大きなきっかけとなり、10月の衆議院選挙にまでなだれ込むこととなります。籠池氏に取材を行った菅野完さんにも大きな注目が集まりました。菅野さんの著作の書評と高橋洋一さんによる問題の“真実”を追った一冊の紹介です。

〈『日本会議の研究』レビュー〉
「『反憲』団体の内幕 丹念に」レビュアー:沼田良(政治学者)

なぜ政権は反動化し、街角でヘイトスピーチが多発するのか。単に社会が右傾したせいか。本書はこうした通念を排して、これが「一群の人々」による執拗(しつよう)な運動の成果であることを実証しようとしたノンフィクション・リポートである。…
https://www.bookbang.jp/review/article/514278

〈『大手新聞・テレビが報道できない「官僚」の真実』ニュース〉
「元財務官僚・高橋洋一氏は「森友学園問題」「加計学園問題」をどう分析するのか」

(略)しかし、文書の実在が確認されたとしても、加計学園の獣医学部新設が認可されるまでの経緯を見れば、認可に「総理の意向」が働く余地は皆無であることが簡単にわかる。…
https://www.bookbang.jp/article/535725

■5月29日 準強姦被害を訴えジャーナリストの女性が会見

 元TBS記者の男性から準強姦被害に遭ったと訴えていたジャーナリストの詩織さんが会見し、不起訴処分を不服として検察審査会に申し立てたことを記者会見で発表しました。9月には検察審査会による「不起訴相当」との結論が公表されましたが、詩織さんは損害賠償を求めた民事訴訟をおこしました。今年はハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ疑惑が報じられたことをきっかけに、世界中で性暴力の被害者が声を上げる「MeToo」運動が起こりました。日本でも詩織さんの告発に勇気を得て、声を上げる女性もあらわれました。詩織さんが実名で語った一冊と、線引の難しいセクハラについて解説した一冊の紹介です。

〈『Black Box』レビュー〉
「性暴力に沈黙せぬ社会を」レビュアー:森まゆみ(作家)

(略) 著者は相手を断罪するのではなく、あったこと、当事者として感じたことを冷静に書き綴(つづ)る。なぜ、警察は何度も同じ体験を語らせるのか。病院やNPOの窓口もなぜ、傷ついた被害者に寄り添った対応ができないのか。これから同じことが起きないために大事なことだ。…
https://www.bookbang.jp/review/article/542645

〈『セクハラ・パワハラ読本』レビュー〉
「事例から“回答”学ぶ」レビュアー:労働新聞社

 互いの違いを正面から認め、ギャップを埋めるコミュニケーションを十分に採る――本書が薦めるエッセンスであり、ハラスメントが生じやすい時代背景を論じた前半と、関連する数々の判例を紹介した後半とでなる。…
https://www.bookbang.jp/review/article/538517

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 以上2017年1月から5月までを振り返りました。後編では6月から12月を振り返ります。

Book Bang編集部
2017年12月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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