【聞きたい。】辻山良雄さん 『365日のほん』 「光って見える本」が満載
[文] 三保谷浩輝
東京・荻窪の書店「Title(タイトル)」店主の辻山良雄さんが春夏秋冬、季節別に計365冊を選んだブックガイド。えりすぐったラインアップ。ポケットサイズながらハードカバーのデザイン、表紙や文中のどこかホッとするイラスト、紙の色使い、質感…。本へのこだわりを感じさせる一冊だ。
「手元に置いて、好きな時に読んで、自分と響き合うもの、その人がより豊かになれるような本を選んでもらえたら。1万冊くらいある店のベスト版のようなものでしょうか」
「季節の一般的なイメージ」や、東日本大震災(3月)、戦争(8月)も踏まえ、「時間がたっても古びない、本質的なことを書いているもの」を選んだ。幅広いジャンル、『方丈記』などの古典から昨年刊行のアート本まで、ページを開いてのお楽しみだ。
それぞれ、本文200字前後で紹介。たとえば、1月の『女たちよ!』(伊丹十三)は〈この洒脱(しゃだつ)なエッセイは、ほどよく嫌味(いやみ)なところがよい。真正の都会人には確固たるスタイルがある。〉(全文)など社会、文明批評的な視点も。
「ブックガイドですが、書影もなく、そんなにあらすじも紹介していない。その本のスケッチ、たたずまい、雰囲気を伝え、読者との懸け橋になれれば」
近年、ウェブに押される紙の本だが、「ウェブとは違う時間の流れ方で、遅いけど、その分、しみこみ方は深い。その場限りのネット情報だけでは精神がやせていきますよね」。
いい本は「光って見える」という。「装丁だったり、著者さんと、その本のテーマだったり、『これしかない』というものが、一冊の本の形になっているのがたまにあるんです」
築70年の古民家を改装した店も、大手書店などに比べて「時間がゆっくり流れている」。辻山さんの著書を読んで訪れる客も多い。「光って見える本」が満載の本書と店。あなたも…。(河出書房新社・1400円+税)
三保谷浩輝
◇
【プロフィル】辻山良雄
つじやま・よしお 昭和47年、神戸市生まれ。大学卒業後、書店リブロを経て平成28年1月、「Title」オープン。著書に『本屋、はじめました』。