【手帖】『藤田嗣治 手紙の森へ』出版

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 20世紀前半のパリで華々しく活躍した画家の藤田嗣治(1886~1968年)。彼が残した手紙に焦点を当てた『藤田嗣治 手紙の森へ』(林洋子著・集英社新書ヴィジュアル版・1200円+税)が出版された。著者は『藤田嗣治 本のしごと』などの著書がある藤田研究の第一人者。

 藤田は「乳白色の肌」と呼ばれる独特の絵肌の作品を制作しヨーロッパで絶賛された。本書を引用すれば「作品を現地で売ることで生活できた最初の日本人美術家」だ。

 筆まめで、普段の食事のメニューもノートに記していた。それゆえ多くの手紙が存在する。ほとんどはインクで書かれた文字に、イラストが添えられていて華がある。

 友人の画家、猪熊弦一郎が入院すると、絵入りの励ます手紙を送った。「平癒祈願」と書かれたのぼりを背負った山伏姿で祈っている様はかわいらしく、愛情あふれる。アメリカ人の友人には英語の文章とともに、洗濯したりする藤田の日常生活のおちゃめな絵が描かれている。いわゆる絵手紙だが、著者は「絵画作品といっていいほどだ」と分析。国際的な画家だけにフランス人の元妻にはフランス語で、米国人には英語などと使い分けていた。

 興味深いのは心模様が如実に出ていること。藤田は戦争画を手がけたことで終戦後は「戦争協力者」と批判された。1945年8月24日付のある画家への手紙には、「いろいろ戦争のものを家から一掃して、戦前と今度の生活を一つなぎにしようと努力してます」という記述も。戦犯容疑が影を落とし不安な心が見え隠れする。

 戦後、失意のうちに離日し、一時滞在したアメリカで恩人の米国人に送った「私は自由です。-私はやる気に満ちています」との手紙は、晴れやかな希望に満ちている。やがてフランスへと渡り、同国の国籍を取得。カトリックの洗礼を受けレオナール・フジタと改名した。

 収録図版は百余点。多数の写真も収められている。今年は没後50年。大規模な回顧展が日仏で予定されている。ますます注目されそうだ。(渋沢和彦)

産経新聞
2018年1月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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