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- 続ける脳
- 価格:880円(税込)
人生は「やりたいこと」ばかりではありません。「やりたくないけれど、やらなければならないこと」も多いものです。やりたくないことを効率よく、しかも楽しんで終わらせて、やりたいことに時間を使うには、どうすればいいのでしょうか? SB新書『続ける脳』(茂木健一郎・著)より、今回は、何かをやり遂げるために必要な「集中」について紹介しましょう。
チクセントミハイの「フロー」という概念
勉強や仕事で、時間を忘れて没頭した経験はありませんか?
こういうときは、「ああ、いい仕事ができた」「いい時間だった」と充実感があるものです。
このような時間の過ごし方を「フロー」といいます。フローとは、課題に没頭して、ときの流れを忘れた状態のことです。「あっという間だった!」わけですから、苦痛を感じずに、質のよいアウトプットができた状態といえるでしょう。フローに入れば、脳にとっても楽しい時間と感じられているはずです。
では、どうしたらフロー状態に入れるのでしょうか?
フローという概念を提唱したハンガリー出身の心理学者ミハイ・チクセントミハイによると、その答えはシンプルです。
「フローに入るには、スキルと課題の難易度が釣り合っていること」
難しい課題に向かうと誰でも不安になるものです。緊張し、気が乗りません。腰が重くなってしまうのは当然です。逆に、課題があまりにも簡単すぎる場合はどうでしょう。退屈してしまい、楽しんでこなすことは困難です。
人間にとって、もっとも集中できるのは、自分のスキルに見合った課題だけです。つまり、フローに入るには、課題のレベルを調節する必要があるのです。時間はたっぷりあるのに、なかなか手がつかない状態の時は、課題の難易度が高すぎるのかもしれません。もう少し手が届くレベルに難易度を落とし、それをクリアするところからはじめれば、集中できるようになるでしょう。
最終的な目標が大きくても、目の前の課題を、自分にとって少しだけ挑戦的な目標に定めることで、フローに入りやすくなり、「成功体験」を得られます。成功体験があると、続ける意欲が湧いてきますし、挑戦した分だけスキルが上がりますから、次回はさらに課題の難易度を引き上げられます。
面倒な仕事を片づけるタイムプレッシャー
こうして一歩一歩、階段を上がるように難易度を上げ、楽しみながら最終目的にたどり着けばよいのです。いきなり最終地点に行こうとすると、何から手をつければよいかわからなくなってしまうからです。
このとき、他人と比べるのはやめましょう。
目標は、他人に決められるものではありません。何が不安で、退屈かを感じられるのは、自分だけだからです。親や先生に、100点を目指せといわれても、今の自分にとって難しすぎるならば、無視してよいのです。
課題が退屈で集中できない場合には、自分で課題のレベルを上げてみましょう。
どうすればいいかわからない?
それでは、次に述べる簡単な方法を試してみてください。
私たちは、自分がやりたいことばかりをやっているわけではありません。
日々の退屈なルーティンワークや、突然頼まれた雑用…。
「面倒だなぁ」
そう思っても、やりたくない仕事をゼロにできる人はなかなかいないでしょう。面倒な仕事を楽しくこなすには、やりたい仕事と同じように、フローに入ればよいのです。やらされ仕事でフローに入るには、まず「やらされている」という感覚を消す必要があります。
コツは簡単です。仕事にかける時間を、自分で決めればいいだけです。
嫌な仕事ほど、やる気がでませんから、だらだら引き延ばしてしまいがちです。
しかし「10分で終了させる!」と決めてしまえば、自分で決めた時間内に終えられるかどうかの「自分の問題」に置き換わります。面倒な仕事が、レベル設定したゲームに変わり、フロー状態に入れるのです。これが「タイムプレッシャー」の効能です。
実際私は、面倒な仕事を頼まれたときは、この方法を使っています。
自分にプレッシャーがかかるよう時間設定をするので、楽しいうえに、スピードも出て、仕事が早く片づく。一石二鳥というわけです。
フローに入れない人は、負荷の調整ができていません。私たちは、「負荷は、外から与えられる」という考えに慣らされてしまっています。学校では先生にいわれるままに勉強し、会社では上司から仕事を割り振られる。「課題は自分で決めてよい」と気づけないのです。たしかに、仕事は他人から依頼されますが、それでも自分の仕事に翻訳できます。好きな仕事をやるためにも、面倒なルーティンを効率よくこなしましょう。
課題に意義があるかは関係ない
「ルーティンの仕事があるせいで、本当に自分のやりたいことができない!」
時間がないのをルーティンワークのせいにして、いつもイライラしている。フローに入れず、ルーティンワークを楽しめない人は、こういうふうに考えていないでしょうか。
チクセントミハイのフローの概念の中で大事なのは、「その課題に意義があるかは関係ない」ということです。
意味がないように見える仕事も、フローに入れば楽しくなります。
私は、業界のトップランナーと対談しますが、どんなにめざましい活躍をしている人も、本質的な仕事にかける時間は、全体の2割あればよいという印象です。面白いデータを紹介しましょう。
世界でもっとも優れた研究所の一つ、プリンストン高等研究所は、「天才たちに好きなことだけをやってもらう」という趣旨で設立されました。授業をする義務もないし、無駄な会議もない。すべての時間を自分の好きな研究に打ち込めるといって、天才たちを集めたのです。
その結果、天才たちはどうなったか。
多くの人の生産性が落ちてしまいました。つまり、邪魔だと感じる仕事の中にも本質的な仕事のヒントがあるのです。
邪魔な仕事からもヒントを見つけるには、その仕事に打ち込んでいる必要があります。たとえば、演劇をやりたいけれど、生計を立てるために、ファーストフード店でアルバイトをしている人がいるとします。
こんなとき、ファーストフード店の仕事を、「バイトのせいで本業に打ち込めない」「演劇がうまくなるチャンスが失われている」と考えてしまう人は多いものです。演劇こそが本当の仕事と思い、ファーストフードの仕事をいい加減にこなしてしまう。しかしそんな姿勢では、仕事から大事なヒントを得るのは難しいでしょう。
接客の仕事が、役づくりに役立つときがくるかもしれません。あるいは、バイト仲間との関係を通して、人の気持ちがわかるかもしれない。
なにより、人生の8割の仕事の時間が、苦痛な時間からかけがえのない時間に変わります。仕事が意味のあるものになるかならないかは、自分の姿勢の問題なのです。
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