【聞きたい。】伊吹有喜さん 『彼方の友へ』 今も昔も変わらないもの

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彼方の友へ

『彼方の友へ』

著者
伊吹 有喜 [著]
出版社
実業之日本社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784408537160
発売日
2017/11/20
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】伊吹有喜さん 『彼方の友へ』 今も昔も変わらないもの

[文] 篠原知存(ライター)


伊吹有喜さん

 「まさに戦争を知らない子供ですから、正直悩みました。戦争のことが書けるのかどうか」。『彼方(かなた)の友へ』は、少女雑誌の編集部を舞台に女性の主人公が奮闘するお仕事小説であると同時に、昭和12年から20年という“戦争の時代”を描いた小説でもある。

 「ただ、読者に良いものを届けたいという気持ちはわかる。それはどんな仕事でも、今も昔も変わらないはず。大事なもの、好きなものがあって、それが制限されてしまったとき、どう生きていくのか。大切なものを守るために、なにができるのか。そこに着目しました」

 資材だけでなく思想さえ厳しく制限され、ついには休刊を余儀なくされる逆境のなか、出版文化を守り抜こうとする編集者たちの姿が心を打つ。多くの犠牲を払いながら生き延びた主人公たちは、戦争直後に再刊を決意するのだが、焼け跡のシーンは最初から書こうと決めていた場面のひとつだという。執筆のための取材で、実際に本や雑誌が飛ぶように売れたことを知った。

 「日本ってすごいなって思いました。何もない時代に、ご飯を我慢しても本を読みたいという人がいた。抑圧されていた子供たちに本を読ませたいと考える人がいた」

 構想のきっかけは、実際に刊行されていた雑誌「少女の友」の復刻版を手にしたことだった。「たった1カ月しか書店に並ばないのに、付録がすばらしくて驚きました」。少女雑誌がどういうものだったのかに興味がわいた。自身が婦人誌の編集者だった経験も執筆を後押しした。男性社会に風穴を開ける女性主人公の姿には、時代を超えた共感がある。なにより「本への愛」がビシバシ伝わってくる。いま、書籍が売れ行き不振に陥っているなかで「エールになってくれたらうれしいですね」。(実業之日本社・1700円+税)

 篠原知存

   ◇

【プロフィル】伊吹有喜

 いぶき・ゆき 三重県出身、中央大を卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。『風待ちのひと』で作家デビュー。本書は直木賞候補となったほか、吉川英治文学新人賞にもノミネート。

産経新聞
2018年2月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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