思わず食べたくなるアイディア料理×ミステリー!『クックドッポ』|中野晴行の「まんがのソムリエ」第83回

中野晴行の「まんがのソムリエ」

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中学生の天才料理人が事件の真相に迫る
『クックドッポ』原作:魚柄仁之助 作画:山仲剛太

 以前このコラムに書いた『紺田照の合法レシピ』の記事を読んだ編集者の方から、「電子コミックと料理というテーマで何か書いてもらえないか」というオファーがあった。『紺田照の合法レシピ』は、料理レシピサイト「クックパッド」と連動しているというのが特徴。編集の方からは「できれば実際に料理を作ってもらい、作る様子と盛り付けた写真もあわせて掲載したい」という注文がついた。
 さらにもうひとつの注文。それは、ほかにも同じようなマンガがあれば並べて紹介したいということだった。いろいろ探して見つけたのが、今回紹介する魚柄仁之助・原作、山仲剛太・作画の『クックドッポ』である。『少年サンデー超』の2011年7月号から連載され、WEBの「クラブサンデー」でも同時配信。さらに、WEB版は「クックパッド」に連動していた(現在リンクは切れている)。

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 主人公の錦戸独歩は中学生。父の乱歩は天才的な日本料理人だったが、愛用の包丁とパソコンを独歩に残して姿を消した。警察は乱歩が殺されたと見て捜査を開始。重要参考人として独歩を追い始める。
 残されたパソコンにあったのは、父の写真とロックのかかった謎のフォルダだけ。何もかも失った独歩は、捜査網をかいくぐって逃亡生活を始めたが、19日を経過したとき、精神的に追い詰められて遺書のようなものをパソコンに打ち込み始める……。
 ドラマは、父譲りの才能を持った天才料理少年が、父の身に来たことを探り、パソコンの謎のフォルダの秘密を知るために、父とゆかりのあった料理人を訪ねながら旅をする姿を追って進んでいく。
 それぞれの土地で、ご当地名物のB級グルメ勝負に関わることになる展開は、旅、料理勝負というグルメマンガの王道をしっかり押さえている。ここに、警察の追跡や謎解きが絡む、というなかなかゴージャスな味わいのマンガなのだ。

 登場するB級グルメは、横須賀・カレー、浜松・ギョーザ、四日市・トンテキ、大阪・たこ焼き&串揚げ、香川・うどん、愛媛・鯛めし、大分・きりたんぽ、鹿児島・サツマイモ、佐世保・バーガー。そして、事件の真相に迫るために北海道に飛んで、小樽・手まり寿司、北海道・塩バターラーメンと続く。そうそう忘れていた、独歩の旅立ちとなる1話に出てくるのは原作者・魚柄仁之助のふるさとである北九州小倉の焼きうどんだ。
 魚柄は、数多くの著作がある食文化研究家、エッセイスト。本作にもこれまでに培った豊富な知識が生かされていて、それぞれの料理の発祥や味の特徴、レシピなどが細かく紹介されている。思わず「なるほど」と言いたくなるところも多く、少年マンガではあるが、大人が読んでも十分に楽しめる内容だ。

 数あるオリジナルレシピの中で、大阪人でもある私が興味を持ったのは、やはり浪花のソウルフード・たこ焼きだ。なにしろ、大阪の家庭には必ずたこ焼き器がある。そこまで愛されている食べ物なのだ。
 大阪の友人・神谷新(あらた)を訪ねた独歩は、新の実家の料亭で、まかない料理として一人前の材料費50円で創作たこ焼きをつくることになる。勝負を仕掛けてきたのは、修業中の新の先輩だ。新を快く思っていない先輩は、独歩にも敵対心を抱いたのだ。父の事が書かれているかも知れない料理日誌を見たい独歩は、無理矢理ともいえる難問に挑戦することにしたのだった。

 独歩のたこ焼きは、ソースの代わりにジュレポン酢を使い、中の具には1匹50円以下で売られているサバフグの身欠き(毒を取り除いた切り身のこと)使ったたこ焼き。正統派のたこ焼きとは言えないかもしれないが、淡白なフグとポン酢の相性は抜群だし、これはこれでうまいはずだ。
 さらに、独歩に対抗して新がつくったのが、フグ入りのたこ焼きをチーズの入った味噌味スープに浮かべた「てっちり焼き」。大阪には、うどんダシにたこ焼きを浮かべた「鉄砲汁」というものもあるし、チーズを使ったたこ焼きもある。だから、これもおいしいはず。ぜひ試してみたい。
 こうなってくると、クックパッドのリンクが切れているのがとても残念だ。

 ミステリ部分も非常によくできていて、ストーリーが進むにつれて、登場する料理人たちがそれぞれ事件の真相に絡んできて無駄がない。上質な料理の味付けのようなバランスの良さがある。とくに、独歩の生い立ちが事件に絡んでくる後半部分にはうならされる。謎解きも見事。
 欧米にはレックス・スタウトが生んだ美食家探偵、ネロ・ウルフのシリーズなどグルメとミステリが一体となった作品が多い。日本でもこういうスタイルがもっと普及してもいいんじゃないか。

中野晴行(なかの・はるゆき)
1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。

eBook Japan
2018年2月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

イーブックイニシアティブジャパン

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