『新・日本の階級社会』
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新・日本の階級社会 橋本健二 著
[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)
◆総中流、いまや5分類
かつて日本は「一億総中流」の社会だと言われたものだった。しかし、実は、一九八〇年前後から格差拡大が始まり、例えば貧困率(所得が国民の平均値の半分に満たない人の割合)ひとつをとっても、八五年の12・0%から二〇一二年には16・1%に上昇していたのだ。
本書では、現代日本の階級が「資本家階級」「新中間階級」(専門職・管理職など)「正規労働者」「アンダークラス」「旧中間階級」(自営業者と家族従業者)の五つに分類されている。
一億総中流の時代との大きな差異は、労働者が「正規」と「非正規」に分裂し、後者が「アンダークラス」(パート、派遣などの身分の不安定な労働者)を形成していることだろう。経済的に恵まれている人たちほど、格差拡大を容認し、所得再分配に消極的な自民党支持者が比較的多いのは予想がつくが、同じ人たちが「排外主義」や「軍備重視」に傾きやすいのは危険な兆候でもある。
もちろん、著者は絶望しているのではなく、格差縮小のための提言をまとめているのだが、累進課税や資産税の強化などの政策は、貧困を個人の才能や努力の不足に帰する、いわゆる「自己責任論」が資本家階級以外にも浸透してしまった社会では実現が難しくなるだろう。日本社会を分断しかねない諸傾向を社会学的に分析した警世の書である。
(講談社現代新書・972円)
<はしもと・けんじ> 1959年生まれ。早稲田大教授。著書『「格差」の戦後史』など。
◆もう1冊
橘木俊詔(たちばなきとしあき)・参鍋篤司(さんなべあつし)著『世襲格差社会』(中公新書)。職業を継ぐことの意味を考え、機会の平等とは何かを問う。