オリエンタルな空気漂う魅惑の奇想譚 「世界の果ての庭」ほか

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書籍情報:openBD

オリエンタルな空気漂う魅惑の奇想譚

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 A・E・コッパード、G・K・チェスタトン、ジェラルド・カーシュらの作品の翻訳や英米短篇アンソロジーの編纂、四月に第四回の発表を迎える日本翻訳大賞や文学ムック「たべるのがおそい」(書肆侃侃房)、電子書籍レーベル〈惑星と口笛ブックス〉などの立ち上げの他、歌人やミュージシャンなど実に多岐にわたる活動を展開する西崎憲氏。二〇〇二年には『世界の果ての庭』(創元SF文庫)で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビューも果たしている彼による、オリエンタルな空気漂う魅惑の奇想譚が、『蕃東国(ばんどんこく)年代記』だ。

 時は中世後期。日本海に浮かぶ三つの島から成る蕃東国は、倭国と中国の影響で宮廷文化が花開く小国。貴族たちが大池の周囲に集まり竜が天に昇る様子を見物したり、入江で船同士を闘わせる「舟合わせ」の開催中に怪異を目の当たりにしたり。貴族の宇内と従者の藍佐(らんざ)、盗賊の煙らを登場させつつ、収録される五篇はどれも幻想的でダイナミックな光景を広げていく。東洋に伝わる説話の風味と西洋側から見た東洋趣味の味わいが共存するのは、古今東西の短篇や逸話に精通している著者だからこそ。続篇を切に望む。

 東洋、歴史、幻想、とくれば宇月原晴明の山本周五郎賞受賞作『安徳天皇漂海記』(中公文庫)も。壇ノ浦の合戦で幼くして入水した安徳天皇の魂をめぐる二部構成の物語だ。第一部は鎌倉幕府将軍・源実朝が、神器に守られた安徳天皇に遭遇。第二部での語り手はモンゴル帝国のクビライ・カーンに仕えるマルコ・ポーロ。彼が、南宋の幼い帝と、海をわたって来た安徳天皇の魂の運命を見届ける。美しく壮大な叙事詩だ。

 作中、何度も言及されるのが高丘親王。とくれば浮かぶのは澁澤龍彦の名作『高丘親王航海記』(文春文庫)。平安初期、唐の広州から海路で天竺を目指した親王は、ジュゴンに言葉を教えたり、下半身が鳥である女性や犬の頭を持つ人間がいる国を訪れたり……。東洋を舞台に奇想天外で鮮やかな旅が展開していく。著者の遺作となった、読売文学賞受賞作だ。

新潮社 週刊新潮
2018年3月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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