人間と大差ない?「歌う鳥のキモチ」 実際に聞ける計らいも

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歌う鳥のキモチ

『歌う鳥のキモチ』

著者
石塚 徹 [著]
出版社
山と溪谷社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784635230087
発売日
2017/11/14
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

鳥の歌声を聞き分け、分析すると驚くべき多様な世界があった

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 春になると都心のわが家でもウグイスが鳴く。歌い始めの頃はおぼつかず、頭の「ホー」の部分がよろよろしているが、練習するうちに声が伸びて朗々としてくる。うまく鳴けると気持ちいいだろうし、まわりからも一目置かれるだろう。

 どんな生き物も、振る舞いに影響を与える「気持ち」を抱えて生きている。それを本能と言ってもいいかもしれないが、「気持ち」のほうが同じ生き物として地続き感がある。

 著者は動物社会学・行動生態学の専門家。野生の小鳥の生態を、彼らの歌のレパートリーを聞き分けながら理解していく。鳥には複数の持ち歌があり、エリアごとに歌い方が違ったり、ほかの鳥の歌を取り入れたりもする。森の中では、鳥たちの声をめぐって驚くべき多様な世界が展開されているのだ。

 クロツグミはレパートリーの多い鳥だそうだが、中でもルビオと命名した一個体を観察した話はおもしろい。一般的に、花嫁募集のときは大声で激しく歌い、妻を得るとやさしい小声になるが、ルビオは妻を得たあとも遠出してガンガン歌い、何食わぬ顔で巣にもどり妻に小声で歌った。歌がでるのはホルモンの働きだそうで、浮気したくて歌ったというより、歌いたくなった結果、別の雌とつがうことになったらしい。

 何かの目的のために歌っていると考えると、鳥の生態を見失う。歌わずにいられない衝動が体のうちに湧き起こり、その行為が生存や遺伝子のコピーを残すのに有利に働くと、次世代に引き継がれ、選択されていくのだ。

 思えば私たちの行動にも似たところがある。鼻歌は思わず歌ったら気持ちよくなり、よいしょ、などの掛け声も、口にだしてみたところ、調子づいて続ける。発声の衝動において、鳥も人間も大差はないのだ。

 本書で解説される鳥の歌声が、版元のウェブサイトで聞けるという心憎い計らいもされている。おもしろくて聞き惚れてしまった。

新潮社 週刊新潮
2018年4月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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