『ザビエルの夢を紡ぐ』
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【聞きたい。】郭南燕さん 『ザビエルの夢を紡ぐ』
[文] 産経新聞社
■知識人を心酔させた言語力
青森・弘前のカトリック教会で2001年、カナダ人神父の説教に「外国人で一番うまく日本語を操れるのは宣教師だ」の“啓示”を得た。以来、外国人宣教師が日本語で書いた「日本語文学」を研究してきた。
460年余前、キリスト教を伝来させたフランシスコ・ザビエルは、イエズス会への書簡で日本人を「今までに発見された国民のなかで最高」とし、日本語習得の情熱を燃やした。その遺産が、明治以降約300人の欧米人宣教師が残した約3千点の著作。本書にはザビエルと、明治~平成の神父4人が登場する。
日本の殉教者史をまとめた『日本聖人鮮血遺書(やまとひじりちしおのかきおき)』の共著があるヴィリオン(滞日64年)、抜群の日本語力で新聞コラムも執筆したカンドウ(同21年)、戯曲を含め、詩情に満ちた作品のホイヴェルス(同54年)、遠藤周作『おバカさん』のモデルになったネラン(同59年)の4神父だ。
いずれも、「日本人には当たり前のこと、見落としていることを書いたり、表現も日本人が使わないもの、慎重、丁寧な使い方をしたりで新鮮な驚きを与えた」。ネラン神父が透徹した観察から日本家屋を〈描き難い魅力に溢(あふ)れている〉などと記した文章など、目を開かれるものがある。彼らの日本語文学に影響を受けた知識人も多い。
「徳富蘇峰から司馬遼太郎、鶴見俊輔…もう左も右もなく傾倒、心酔した。それが知識人たちの糧にもなり、現代の日本文化建設の力にもなったと思う」
なぜ、宣教師なのか-。「彼らは自分たちのメッセージを伝えるためにも日本人の心、文化を深く知ろうと研究している。その使命感、謙虚な姿勢…やはり聖職者だからでしょうか」
日本語を母語としないのは自身も同じ。宣教師たちの文学に刺激を受け、「私もいつか小説の創作を…」とひそかに決意している。(平凡社・4000円+税)
三保谷浩輝
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【プロフィル】郭南燕
かく・なんえん 日本語文学者。1962年、中国・上海生まれ。復旦大卒。お茶の水女子大などに学び、国際日本文化研究センター准教授など歴任。『志賀直哉で「世界文学」を読み解く』など著書多数。