1960年代ヒーローものの集大成『電人アロー』|中野晴行の「まんがのソムリエ」第90回

中野晴行の「まんがのソムリエ」

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当時の子供たちを夢中にさせた
科学考察を盛り込んだ先駆的SFマンガ
『電人アロー』一峰大二

 同世代のマンガ好き、特撮好きが集まって飲む機会があった。みんな還暦を過ぎたじいさんたちだ。懐かしいテレビの特撮番組の話をしていたら、ひとりが言った。
「なんだか、どれもこれも一峰大二がマンガを描いているね」と。
 たしかに、話題にのぼった『ナショナルキッド』も『七色仮面』も『白馬童子』も、『スペクトルマン』も『怪傑ライオン丸』も『電人ザボーガー』もみんな一峰大二が雑誌版を手がけている。『ウルトラマン』シリーズだって一峰版がある。
「特撮ヒーロー物の巨匠だね」と誰かが言ったら、その場にいたじいさん全員が納得した。
 一峰大二は1935年12月生まれ。現在82歳だが、まだまだ元気そのもの。マンガ関連のパーティでは必ず御夫婦でお見かけするし、イラスト展などで新作を見ることも多い。早くから作画にPCを使うなど、デジタルにも貪欲にチャレンジしていて、そのあたりが元気の秘訣かも知れない。
 そんな一峰が、描き下ろしイラストの題材として好んで取り上げているのが、今回紹介する『電人アロー』だ。2017年冬のコミケでは、マンガの新作も発表した。

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 光文社の雑誌『少年』で連載が始まったのは1964年。65年には東京ムービー(現・トムスエンターテインメント)製作でテレビアニメも予告されていた。しかし、直前になってスポンサーの製薬会社が降りたためにパイロット版がつくられただけに終わっている。
 一峰のオリジナルだが、コミカライズで磨いたテクニックを惜しげもなくつぎ込んだ贅沢なつくり。とにかくかっこいい。今回読み直して、テレビアニメ版が放送されていれば、60年代を代表するヒーローとして語り継がれただろうに、とさえ思えてきた。

 ロボット学者の不二博士は、研究のために息子と息子の親友・栗田、それぞれの体を使って、二体のサイボーグをつくる人体実験を行う。息子は電気のエネルギーで活動する人工細胞の体と、腕と足には小型で強力な原子エンジンを持つサイボーグ「電人アロー」に生まれ変わったが、実験が失敗した栗田は力の弱いサイボーグになってしまう。悲観した不二博士は自殺。栗田はアローに恨みを持ち、アローを陥れ、アローの体の秘密を手に入れようと、悪人たちを廃墟となった不二研究所に送り込んだ。
 偶然、小学生の沖利夫と出会ったアローは、利夫に自分の体の秘密を記録した「アローノート」と、危険が迫った時に自分を呼び出す「信号銃」を託す。

 ヒーローと少年が出会って、少年がさまざまな事件に巻き込まれる、という展開はまさに60年代ヒーローものの王道。読者の子どもたちは、自分もいつかはヒーローと友だちになれると信じてたのだ。この関係性をコメディに置き換えたのが、『オバケのQ太郎』や『ドラえもん』。読者が登場人物に同化しやすいマンガほど人気が出る、というヒットの法則は今も昔も不変だ。
 そして、ヒーローはクールで寡黙であるほど人気者になるのも同じ。アローはその点でもぴったりはまっていた。
 必殺技は、両手をスパークさせてつくる「電光スピア」。これも、クラスの男の子がけっこう真似していた。折尺という折りたたみ式のものさしを使うとスピアと似た形になる、と気づいた子が父親の折尺を持ってきて、たちまち人気者になったこともあった。あとで、父親の電光スピアという名の雷が落ちたとも聞いたが……。

 子どもの時にとても感心したのは、栗田が水で満たした部屋にアローを閉じ込め、圧力をかけて押しつぶそうとする場面。アローは電気を使って水を酸素と空気に分解して助かるのだけど、ちょうど学研の『科学』という雑誌で電気分解のことを読んだばかりだったので、「なんて科学的なマンガなんだ」と思った。
 前回紹介した『ワタリ』もそうだったが、当時の子どもマンガは、ストーリーの中に科学的な知識が散りばめられていて、そこから科学に興味を持ち始める子どもも少なくなかった。
 この内容紹介だけでは、単なる勧善懲悪ものと誤解されそうで心配だが、実はSFマンガとしてはかなり先を行く作品なのだ。サイボーグという技術を紹介したのは、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』と同時期。アクチュエータの可動部分にモーターをつけるという考え方も新しかった。さらに、太平洋での核実験の恐ろしさが描かれていたり、私利私欲に走った敵役の悲しい宿命を描いていたり……。読み直してみて、当時の少年マンガの豊かさに驚かされた。オールドファンも若い読者もぜひご一読を。

中野晴行(なかの・はるゆき)
1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。

eBook Japan
2018年4月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

イーブックイニシアティブジャパン

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