『蘇るサバ缶』
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【聞きたい。】須田泰成さん 『蘇るサバ缶 震災と希望と人情商店街』
[文] 産経新聞社
■店が人をつないだ支援の軌跡
東京都世田谷区の経堂(きょうどう)といえば、下北沢と成城の間にあるというくらいで、これといったイメージのない人も多いことだろう。それがこんなにも人情に厚い街とは知らなかった。
「戦後、近くの砧に東宝スタジオがあることから映画人が住み始め、文化の雰囲気が出てきた。家族経営の小さなお店が多く、お店が人をつなぐ装置になっている。顔の見える関係性で繰り返し人が集まってくると、人情味が生まれるのかもしれないですね」
平成23年に発生した東日本大震災で、宮城県の小さな水産加工会社、木の屋石巻水産は大きな打撃を受けた。本社も工場も津波で壊滅し、保管してあった100万個の缶詰は泥まみれになった。それらを一つ一つ手で洗い、義援金という形で販売協力したのが経堂の商店街だった。
中心になって尽力した立場として、これまでの活動の軌跡を振り返ったのがこの本だ。「新聞やテレビなどで取り上げてくれて売り上げも伸びたが、被災地への関心は年々減っていく。風化させないためにも、手にとって一通りわかるものが必要だと思いました」と出版の意義を語る。
経堂とのかかわりは、上京して間もない19歳のころにさかのぼる。評論家の植草甚一の本に「歩いて楽しい街」とあるのにひかれ、10カ月ほど暮らした。その後、ロンドン留学などを経て約20年前から定住。テレビ番組などの制作のかたわら「経堂系ドットコム」というサイトを設立し、人と人をつないできた。
経営不振の飲食店があれば、イベントなどを企画して応援する。そんな中から生まれたのがサバ缶による街おこしで、その縁で震災後、木の屋石巻水産への支援の輪が広がった。
「この本が出てから、商店街は結構お客さんが増えているらしい。宮城の木の屋さんの売店には、九州からサバ缶を買いに来た人がいたそうです」と笑顔を見せた。(廣済堂出版・1300円+税)
藤井克郎
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【プロフィル】須田泰成
すだ・やすなり 昭和43年、大阪府生まれ。コメディーライター兼プロデューサー。著書に「モンティ・パイソン大全」など。