『戦前の怪談』田中貢太郎著
[レビュアー] 産経新聞社
高知県出身の伝記作家、怪談文芸の大家である著者(1880~1941年)が実話などをもとに著した全24編の怪談アンソロジー。
「蟇(がま)の血」は、女と同棲(どうせい)中で高等文官試験を控えた青年が自宅への帰途、行き会った若い女に誘われ、女の「妹」の家へとあがる。迷路のような屋敷で、自宅に帰ろうと何度も試みるが…。「いくら逃げようとしたって、今度は放しませんよ」。出口のない迷路の恐怖がじわじわと迫ってくる。
表題通り、本作を読み進めていくと、“戦前”への時間旅行に誘われる。古書店で良書に巡り合った感覚を抱いた。(河出書房新社・1800円+税)