「あのフレーズ」をツイートしたら使用料がかかる? 著作権法の現状

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JASRACと著作権、これでいいのか

『JASRACと著作権、これでいいのか』

著者
城所岩生 [著]
出版社
ポエムピース
ジャンル
社会科学/法律
ISBN
9784908827389
発売日
2018/03/09
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「あのフレーズ」をツイートしたら使用料がかかる? 著作権法の現状

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

JASRAC(日本音楽著作権協会)は、2018年1月より音楽教室から著作権使用料を徴収すると発表しました(2017年2月)。 これは一体どういうことなのでしょうか? 音楽教室は、いままでとやっている内容は何一つ変わらないのに、突然、JASRACに著作権使用料を支払わなければならないのです。 音楽教室は、著作権料支払い事務量の増加や、著作権料の支払いのため、生徒に授業料の値上げを迫ることも考えられます。値上げにより、生徒が減り、閉室してしまう教室も出てくるかもしれません。 子どもにピアノや楽器を習わせたいと考えている人たちも、値上げの話を聞いて、二の足を踏んでしまう可能性があります。 (「はじめに」より)

このように訴えているのは、『JASRACと著作権、これでいいのか 強硬路線に100万人が異議』(城所岩生著、ポエムピース)の著者。日本の著作権法改革を進めるために、日々活動を推進しているという米国弁護士/学者です。

日本の著作権法は海外にくらべて厳しいといわれており、それが遠隔教育(ICT活用教育)の普及や医療の現場で最善の治療を受けることを阻んでいることになっているのだとか。また裁判所も、その厳しい著作権法をさらに厳格に解釈する傾向があるのだそうです。

その結果、検索サービスや論文剽窃(ひょうせつ)検出サービスなど、新規イノベーションの芽を摘んでしまうため、それが日本のIT産業が海外よりも遅れをとる一因だともいわれているのだというのです。

JASRACにしても同じで、日本の著作権法を厳格に解釈する裁判所のおかげで、これまで著作権法関連の裁判では負け知らずだったといいます。ところが今回、将来の音楽文化を担う音楽教室からの使用料徴収に踏み込んだことで、音楽教育を守る会から訴えられることになりました。

そんななか、日本の著作権法の現状を多くの人に知ってもらうために書かれたのが本書だということ。いくつか、気になるポイントを抜き出してみましょう。

Q. 著作権法って何? なぜ今注目されている?

A. 著作権とは著作権者の利益を守る権利。現代ではすべての人が著作権に関わり侵害するおそれが高まっている。

Point.

◇ 著作権法は、著作権者の利益を守りつつ、皆が公正に著作物を利用できるようにすべきと定義している。

◇ 昔は一部の専門家のみの問題だったが、現代では老若男女全員に関わってくる重要な問題である。

(8ページより)

著作権とは、著作者に与えられる権利。そして著作者とは、小説家、漫画家、作詞家、作曲家、脚本家、番組制作者、画家、彫刻家など「創造的な作品を制作した人」のこと。つまり、著者者が自分の考えや感情を表現するために制作した作品を「著作物」と呼ぶわけです。

著作権は著作権法という法律によって定められており、その第1条には「著作物の公正な利用に留意しつつ、著作権の保護を図り、文化の発展に寄与することを目的とする」と書かれているのだそうです。これは、すべての人々が作品を公平に利用できるようにしつつも、著作権者の利益も保護するということ。著作者とユーザー双方の権利を守ることで、文化の発展を目指そうとしているわけです。

昔はプロの書き手が書いた作品を出版し、みんなで楽しむ時代でした。そのため著作権は、作家や出版社など一部の専門家の問題だったのです。ところがいまでは、インターネットの普及によって、誰でも創作でき、簡単に作品を公表できるようになっています。そのぶん、誰もが著作物を創作する際に、他人の著作物を侵害するおそれが出てきたわけです。また、自分の著作物の著作権を他人に侵害されるおそれも増してきています。

つまりは誰でも著作権侵害の加害者あるいは被害者になるおそれが出てきたため、著作権が注目されるようになったということです。(9ページ「―解説―」より要約)

Q. JASRACは、なにをしているところ?

A. JASRACは著作権者と音楽ユーザーの架け橋となるところ。

Point.

◇ 音楽を使用する際は、著作権者に使用料を支払わなくてはならない。

◇ JASRACは著作権者が音楽活動に専念できるよう著作権の管理・手続きを代行している。

(18ページより)

JASRAC(Japan Society for Rights Of Authors, Composers and Publishers)とは、一般社団法人日本音楽著作権協会のこと。音楽の著作物の著作権を保護し、あわせて音楽の著作物の利用の円滑を図り、音楽文化の普及発展に寄与することを事業目的に掲げているのだそうです。

つまりJASRACの役割をひとことで言い表すなら、「著作権者と音楽ユーザーの架け橋」。国内の作詞者、作曲者、音楽出版社などの著作権者が音楽活動に専念できるように、著作権の管理を代行しているということ。具体的には、「音楽を利用したい」という人々から適切な使用料を聴取し、著作権者に分配しているわけです。

現在、音楽はコンサート、お店のBGM、カラオケ、映画、テレビ、ラジオ、CD、DVD、楽譜、音楽配信、動画共有サイト、ゲームアプリなどさまざまなシーンで利用されています。こういった用途で音楽を利用する場合、基本的に、無断で使うと著作権法に違反することになります。そして違反を逃れるためには、さまざまな手続きを行う必要があります。

しかし、そうした手続きに毎回、著作権者が対応していたら、新たな音楽を捜索するための時間が大幅に削られることになります。また音楽を使用したい側も、複数の著作権者に同様の手続きを申請するとなると、大きな手間がかかってしまいます。

そこで、そういった手間を省略し、ユーザーが著作権法に違反することなく簡単に利用するための手続きを行える窓口がJASRACだということ。(19ページ「―解説―」より要約)

Q. 葬儀で故人の好きだった曲を流すのも使用料を払わなければいけない?

A. 遺族が持ち込んだ曲でもJASRACに使用料を払わなければならない!

Point.

◇ 2017年、ミュージシャンの佐藤龍一さんが、故人が生前好きだった曲を流そうとして葬儀会社に断られた。

◇ 遺族が曲を持ち込んでも葬儀会社の設備を使えば、音楽を流すのは葬儀会社とみなされ、JASRACに使用料を支払わなければならない。

(21ページより)

「父の葬儀、流せなかった思い出の曲 著作権の関係は?」(朝日新聞デジタル)によると、ミュージシャンの佐藤龍一さんは、葬儀で父親の好きだった「江差追分」を流そうとしたのだそうです。しかし著作権の切れた民謡であるにもかかわらず、葬儀会社に断られてしまったのだといいます。

葬儀会社は、JASRACと契約しています。そのためJASRACは、葬儀会社の音源ではなく、遺族が持ち込んだ音源であっても、それを葬儀会社が用意した装置で流せば、流す主体は葬儀会社だとしているのです。「葬儀を管理している」「葬儀で利益を上げている」という理由で、葬儀会社が曲を流す主体とされるということ。

佐藤さんが依頼した葬儀会社も、民謡が著作権切れであることを知らなかったということもあるものの、こうした解釈の影響により、事なかれ主義で断ってしまったというのです。(22ページ「―解説―」より要約)

ツイッターで歌詞をつぶやいただけでお金を取られちゃう?

A. ある特定の曲を連想させる歌詞をツイートしたらJASRACは使用料が発生すると主張している!

Point.

◇ 基本的に、新聞の見出しのような短いフレーズは著作物とはみなされないため、使用料は発生しない。

◇ しかし、JASRACはある特定の曲を連想させる歌詞をツイートしたら使用料が発生すると主張している!

(27ページより)

厳しい引用の要件を満たさなくても、著作権法に違反しないケースもあるのだといいます。たとえば、短い歌詞。誰もが思いつくような短いフレーズは、著作物と見なされないということ。ところが、JASRACの見解は違うというのです。

私は映画「アナと雪の女王」が大ヒット中の2014年9月にプレジデント誌の「世のなか法律塾」という連載コラムから取材を受けました。「ありの~ままの~♪と“つぶやく”のは違法か」と題する記事だったため、実際にJASRACに 確かめたところ「映画のヒット前なら『ありのままの』というフレーズは著作物ではないが、今なら前後関係から主題歌を連想させるようだと、著作物になる」との回答でした。(28ページより)

同誌はこの回答をあくまでJASRACの見方にすぎないとしたのち、著者の「JASRACの見解は行き過ぎ。表現の自由との兼ね合いもあり、おそらく実務家の多くは、侵害にあたらないと考えるのではないか」とする意見を紹介しているといいます。

著作物とはみなされないような短い歌詞でも使用料が発生するというJASRACの主張は、はたして正しいのでしょうか? なにしろ、ツイッターをはじめとするSNSがこれだけ普及している時代です。短い歌詞であるなら、使用を認めてその曲の市場が奪われるデメリットよりも、宣伝効果によって市場が拡大するメリットのほうが大きいはず。にもかかわらず、こうした短い歌詞の引用からも使用料を徴収しようとするのは、時代に逆行しているのではないか? そんな著者の主張に、個人的には強く共感できます。(28ページ「―解説―」より要約)

堅苦しく解説されているわけではなく、このように「Q」「A」「Point」を読めば著作権法の現状をざっくりと知ることが可能。また「解説」まで読み進めれば、さらに詳しく知ることができるわけです。著作権法は、僕たちの日常生活にも少なからず影響を及ぼすもの。だからこそ、ぜひとも読んでおきたい1冊です。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年5月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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